「さぁ鈴蘭、出番だよ。」
ついにその時はやって来た。
今年で最後の舞台の幕開けだ。この場所は3年前に始めて唄を披露した場所でもある思い出の地。
心残りがないように精一杯頑張ろう。
踊り子達はそれぞれ気合いを入れ直し、光の世界へと果敢にも乗り込んで行く。
大喝采の中、私達はめいいっぱいの踊りを舞う。
笑顔は絶やさず穏やかに…。
だけど、間違える事は一度足りとも許されない。
もしも間違えでもしたら、その日の夕飯はまず無くなるし、座長の機嫌次第では鞭打ちのバツだってあるくらいだ。
中には厳しさゆえに脱走を試みた者もいたが、必ず連れ戻されて、1ヶ月は舞台に立てなくなるほどの体罰が与えられた。
ここはまるで鳥籠の中…
自由に空を飛び回る事は許されず、ただ踊り、歌い続けるしかないのだ。
1時間ほどの舞を終え、次は三味線お琴と続き、最後は私の唄だけとなる。
今宵は巷で流行っているという恋唄を歌う事になっている。私は衣装を着替えて髪を整える為、素早く楽屋に戻る。
あれ…⁉︎
この人…いつもの人と違う髪結師だ。
髪結師は大抵いつもベテランの中年男性だったのに、なぜか楽屋に戻ると、すらっとした背の高い男性が待っていた。
普段から髪結師達は、黒子のように口元を隠しているので、顔は分からないのだけど…。
いつもと違う感じに少しの緊張感を持つ。
衣装を着替え終え、恐る恐る鏡の前の椅子に座ると、結い上げた髪を丁寧に解き、優しく櫛で梳いてくれる。
この髪結師に何らおかしな所はないのだけど…なぜか心が落ち着かない。
長く節々がガッチリした男らしい指は若々しくて、綺麗な肌は小麦色。どう見ても髪結師には見えない腕は、筋肉質で筋が浮かび上がるほどだ。
きっと若い男性に免疫がないせいよ…。
そう自分に言い聞かせ、ドキドキと高鳴る胸の鼓動をどうにか落ち着かせようと小さく深呼吸する。
髪結師は無骨な雰囲気とは裏腹に、繊細に指先を動かし器用に髪を一つに編む。そして所々に白いスズランの花を差し込んでいく。
揺ら揺らと揺れるスズランがとても可愛くて、つい微笑みを漏らすと、
「とてもお似合いです。」
と、突然言葉を発するから、えっ⁉︎と驚き思わず鏡越しに目を向ける。
すると、目が合い数秒止まる。
切れ長の綺麗な澄んだ瞳に釘付けになる…。
「あっ、話しかけてはいけない約束だったか…。」
と、髪結師は苦笑いをしてまた仕事に戻る。
白いリボンを髪に施し、とても素敵にそして手早く完成させてくれた。
ペコリと頭を下げてお礼をする。
するとまた、
「鈴蘭殿は、名の通りこの花のような方ですね。」
と、今度は明確に私に話しかけてくる。
「あ、ありがとうございました…。」
私は戸惑いながらも、小さな声でお礼を伝える。
ドアの外には一座の者がいるはずだから、もしも話した事がバレたらこの人のクビが飛んでしまう。
慌てて鏡の前から立ち上がり、部屋を出て舞台へと一歩踏み出そうとする。と、
「貴女に一つお願いがあります。
客席に怪しい男が1人、先程から貴女を狙っています。どうか私を舞台袖につかせて下さい。貴女をこの手で守りたい。」
髪結師がそう耳元でささやく。
私が命を狙われている?なぜ…⁉︎
だけど…考える間も無いくらい次の出番が迫っている。
「舞台で死ねたら本望です。私の事はお気になさらず、それよりもこれ以上お喋りになると、貴方の方のクビが飛んでしまいますよ。」
私は口早にそれだけを伝えると控え室から飛び出した。
ついにその時はやって来た。
今年で最後の舞台の幕開けだ。この場所は3年前に始めて唄を披露した場所でもある思い出の地。
心残りがないように精一杯頑張ろう。
踊り子達はそれぞれ気合いを入れ直し、光の世界へと果敢にも乗り込んで行く。
大喝采の中、私達はめいいっぱいの踊りを舞う。
笑顔は絶やさず穏やかに…。
だけど、間違える事は一度足りとも許されない。
もしも間違えでもしたら、その日の夕飯はまず無くなるし、座長の機嫌次第では鞭打ちのバツだってあるくらいだ。
中には厳しさゆえに脱走を試みた者もいたが、必ず連れ戻されて、1ヶ月は舞台に立てなくなるほどの体罰が与えられた。
ここはまるで鳥籠の中…
自由に空を飛び回る事は許されず、ただ踊り、歌い続けるしかないのだ。
1時間ほどの舞を終え、次は三味線お琴と続き、最後は私の唄だけとなる。
今宵は巷で流行っているという恋唄を歌う事になっている。私は衣装を着替えて髪を整える為、素早く楽屋に戻る。
あれ…⁉︎
この人…いつもの人と違う髪結師だ。
髪結師は大抵いつもベテランの中年男性だったのに、なぜか楽屋に戻ると、すらっとした背の高い男性が待っていた。
普段から髪結師達は、黒子のように口元を隠しているので、顔は分からないのだけど…。
いつもと違う感じに少しの緊張感を持つ。
衣装を着替え終え、恐る恐る鏡の前の椅子に座ると、結い上げた髪を丁寧に解き、優しく櫛で梳いてくれる。
この髪結師に何らおかしな所はないのだけど…なぜか心が落ち着かない。
長く節々がガッチリした男らしい指は若々しくて、綺麗な肌は小麦色。どう見ても髪結師には見えない腕は、筋肉質で筋が浮かび上がるほどだ。
きっと若い男性に免疫がないせいよ…。
そう自分に言い聞かせ、ドキドキと高鳴る胸の鼓動をどうにか落ち着かせようと小さく深呼吸する。
髪結師は無骨な雰囲気とは裏腹に、繊細に指先を動かし器用に髪を一つに編む。そして所々に白いスズランの花を差し込んでいく。
揺ら揺らと揺れるスズランがとても可愛くて、つい微笑みを漏らすと、
「とてもお似合いです。」
と、突然言葉を発するから、えっ⁉︎と驚き思わず鏡越しに目を向ける。
すると、目が合い数秒止まる。
切れ長の綺麗な澄んだ瞳に釘付けになる…。
「あっ、話しかけてはいけない約束だったか…。」
と、髪結師は苦笑いをしてまた仕事に戻る。
白いリボンを髪に施し、とても素敵にそして手早く完成させてくれた。
ペコリと頭を下げてお礼をする。
するとまた、
「鈴蘭殿は、名の通りこの花のような方ですね。」
と、今度は明確に私に話しかけてくる。
「あ、ありがとうございました…。」
私は戸惑いながらも、小さな声でお礼を伝える。
ドアの外には一座の者がいるはずだから、もしも話した事がバレたらこの人のクビが飛んでしまう。
慌てて鏡の前から立ち上がり、部屋を出て舞台へと一歩踏み出そうとする。と、
「貴女に一つお願いがあります。
客席に怪しい男が1人、先程から貴女を狙っています。どうか私を舞台袖につかせて下さい。貴女をこの手で守りたい。」
髪結師がそう耳元でささやく。
私が命を狙われている?なぜ…⁉︎
だけど…考える間も無いくらい次の出番が迫っている。
「舞台で死ねたら本望です。私の事はお気になさらず、それよりもこれ以上お喋りになると、貴方の方のクビが飛んでしまいますよ。」
私は口早にそれだけを伝えると控え室から飛び出した。



