一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

陛下が去ってから側室達は好き勝手話し始める。

「陛下のお冷たい態度、あんまりですわ。
私達だって好き好んでこんな埃が被ったような後宮にいる訳ではないのに。お父様に言いつけてやります。」

蝶や華よと可愛がられ、甘やかされて育った1番目の側室高琳(こうりゃん)は怒りを露わにする。

「あら、高琳様はもう根を上げますの?
私は断然燃えますわ。あの、凛々しくお綺麗なお姿。こんなに近くで拝見したのは初めてです。益々、陛下が好きになってしまいましたわ。」

そう、目を輝かせて語るのは2番目の側室の洋だ。

「私も負けません。
陛下から子種を授からなければ、家に顔向け出来ませんから。」
3番目の側室である杏も決してめげる事はない。

皆それぞれ親の期待を一身に背負い、あばよくば皇太后の座を手に入れたい野心家ばかりだ。

一方晴明は自室に戻り心身共に疲れ果てていた。

後宮殿に気の休まる場所はもはや無い。

この自室でさえも、入口には信用出来る兵を2人置き寝台には短刀を隠し持つ。

今更ながら、こんな場所に鈴蘭を呼んで良かったのかと思い悩む。

無垢で心の綺麗な鈴蘭が、この淀み切った後宮に足を踏み入れたら、たちまち心をすり減らしてしまうだろう…。

守らねばならない、どんな毒牙からも…。
決意を新たに晴明はしばし目を閉じ彼女を思う。