一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

晴明と言う男、宮殿では一貫して冷酷な皇帝だ。

日々身の回りを世話する女官でさえ、下手に目を合わせられないくらいの恐怖を感じている。

特に皇帝になってからは誰にでも平等でなければならないと、輪をかけ冷酷になった。
もはや素の姿を知る者は、幼少時代からの家臣しか居ない。

そしてこの目の前にいる3人の側室は、正妃の座を奪い合うために送り込まれた、言わば古狸達の刺客と言ってもいいくらいだ。

いつ寝首を欠かれるか分からない。
そんな危険を孕んだ後宮に誰が好き好んで来るものかと、晴明は内心思っていた。

彼自身、幼少期から居心地の悪い後宮を嫌って寄り付かなかった。育ったの場所は都から離れたへんぴな田舎町だ。

「あら、お二人とも私を差し置いて酷いですわ。
陛下、私は軍師をしております楚　光源（そ　こうけん）の娘　高琳（こうりゃん）と申します。私がここ後宮の全てを仕切っております。どうぞ、お見知り置きを。」
1番目の側室の高琳の、他人を見下げるような顔がやたら鼻に着く。

あの、古狸の娘だけあって腹黒い…

晴明は訝しげな目を高琳に向けただけで、労う言葉も気遣う様子も見せない。

そして、黙々と食事を済ませ、
「そなた達にこれだけは伝えておく。
ここの生活に飽きたなら、勝手に出て行ってくれて構わない。私は後宮の式たりは好かないし、いずれ解体したいと思っている。
だから今後も足を運ぶ事は少ないし、誰とも情を交わすことは無い。」
ほんの少しの淡い希望さえも持つなと言及する。

「そんなお寂しい事を…。
どうか私共にチャンスをお与え下さい。」
上目遣いで2番目の側室の洋が懇願してくる。

「俺に期待するな。」
そう晴明は冷たく言いのけ、夕飯もそこそこに部屋を後にした。

時にして30分程で食事会は終わりを告げた。