そんな約束をした翌朝、宮殿からの早馬で呼び起こされた晴明は、鈴蘭との約束も守れぬまま急ぎ宮殿に戻される。
長く病床に着いていた上皇が危篤との知らせで、帰らない訳にはいかなかったのだ。
宮殿に帰ったところで上皇の容体が良くなる訳は無く、父として愛された記憶も無い晴明にとって、悲しいとか辛いとかの感情も無く、まるで他人事のようだった。
上皇の容態は昇降状態を保ったままで、しばらく宮殿から一歩も出る事が許さない状態が続く。
お陰で山のように溜まり続けていた書類は徐々に少なくなっていったが、仕事ばかりの毎日に晴明の心はすり減っていった。
別邸に帰れなくなって1週間。
唯一の気休めは、寧々から届く鈴蘭の報告書だったが、これでは一座に居た頃と何も変わらないとため息ばかりの毎日だ。
鈴蘭に会いたい。
少しでも良いから、彼女と会って話せる機会は作れないだろうか…?
晴明は徐々に疲弊していく心で、どうにかしたいと思案していた。
「陛下、上皇后から本日は必ずや側室のどなたかと夕食を共にするようにと事付かっております。どの妃をご所望ですか?」
上皇后のご機嫌伺いから帰って来た李生が、嫌味の如く晴明に話しかけて来る。
「…鈴蘭と一緒に食べたい…。」
晴明もつい本音を呟く。
「そのような子供じみた事を…。
上皇后を今、敵に回すのはいささか得策ではありませんよ。」
李生に咎められ晴明はフッと鼻で息を吐き、
「側室など、古狸達の企みで送られて来た娘ばかりで会う気も失せる。望んでもいないのに押し付けられたのはこちらの方だ。」
珍しく晴明が、気持ちを露わにして怒りにも似た感情を李生にぶつけてくる。
「珍しく…刺々しいお言葉…。流石に滅入っておいでですね。」
フーとため息混じりに李生が、同情にも似た眼差しをなげ返して来る。
「…鈴蘭にどうにかして会えないだろうか…。」
晴明が呟き嘆く。
「その事で一つ提案があります。
明日から上皇様の回復を祈祷する為、住職が数人お越しになります。その際に、巫女の舞を捧げる事になりますが、その舞を鈴蘭様にお願いしてみては?」
「鈴蘭を…⁉︎」
彼女なら突然の事であっても立派に勤めてくれるだろう。ただ、足の怪我の具合はいかなるものか…
それに、会いたいと言う自分自身の一方的な気持ちの押し付けでしか無いのだから、彼女に悪いと思う気持ちもある。
会えたならば、自分の身分を明かさなければならないだろう…。
でも、会いたい。
「遠目からでもお会い出来れば本望でしょう?」
李生はそう揶揄ってくるが、晴明にはそれに対応する心の余裕が既に無かった。
「鈴蘭殿に手紙を書く。」
心の葛藤を何度か繰り返し、それでもと意を決して手紙を書き始める。
「身分をバラすお覚悟は整いましたか?」
李生からの問いかけは常に心をえぐってくる。
「既に覚悟は出来ている。」
晴明は静かに頷く。
「必ず、直接手渡してくれ。もし、可能なら今夜にでも連れて来て欲しい。」
手紙を李生に託しながら、晴明は鋭く目線を投げかける。
「御意に。」
これにはさすがの李生も臣下の礼をして、足早に出かけて行った。
長く病床に着いていた上皇が危篤との知らせで、帰らない訳にはいかなかったのだ。
宮殿に帰ったところで上皇の容体が良くなる訳は無く、父として愛された記憶も無い晴明にとって、悲しいとか辛いとかの感情も無く、まるで他人事のようだった。
上皇の容態は昇降状態を保ったままで、しばらく宮殿から一歩も出る事が許さない状態が続く。
お陰で山のように溜まり続けていた書類は徐々に少なくなっていったが、仕事ばかりの毎日に晴明の心はすり減っていった。
別邸に帰れなくなって1週間。
唯一の気休めは、寧々から届く鈴蘭の報告書だったが、これでは一座に居た頃と何も変わらないとため息ばかりの毎日だ。
鈴蘭に会いたい。
少しでも良いから、彼女と会って話せる機会は作れないだろうか…?
晴明は徐々に疲弊していく心で、どうにかしたいと思案していた。
「陛下、上皇后から本日は必ずや側室のどなたかと夕食を共にするようにと事付かっております。どの妃をご所望ですか?」
上皇后のご機嫌伺いから帰って来た李生が、嫌味の如く晴明に話しかけて来る。
「…鈴蘭と一緒に食べたい…。」
晴明もつい本音を呟く。
「そのような子供じみた事を…。
上皇后を今、敵に回すのはいささか得策ではありませんよ。」
李生に咎められ晴明はフッと鼻で息を吐き、
「側室など、古狸達の企みで送られて来た娘ばかりで会う気も失せる。望んでもいないのに押し付けられたのはこちらの方だ。」
珍しく晴明が、気持ちを露わにして怒りにも似た感情を李生にぶつけてくる。
「珍しく…刺々しいお言葉…。流石に滅入っておいでですね。」
フーとため息混じりに李生が、同情にも似た眼差しをなげ返して来る。
「…鈴蘭にどうにかして会えないだろうか…。」
晴明が呟き嘆く。
「その事で一つ提案があります。
明日から上皇様の回復を祈祷する為、住職が数人お越しになります。その際に、巫女の舞を捧げる事になりますが、その舞を鈴蘭様にお願いしてみては?」
「鈴蘭を…⁉︎」
彼女なら突然の事であっても立派に勤めてくれるだろう。ただ、足の怪我の具合はいかなるものか…
それに、会いたいと言う自分自身の一方的な気持ちの押し付けでしか無いのだから、彼女に悪いと思う気持ちもある。
会えたならば、自分の身分を明かさなければならないだろう…。
でも、会いたい。
「遠目からでもお会い出来れば本望でしょう?」
李生はそう揶揄ってくるが、晴明にはそれに対応する心の余裕が既に無かった。
「鈴蘭殿に手紙を書く。」
心の葛藤を何度か繰り返し、それでもと意を決して手紙を書き始める。
「身分をバラすお覚悟は整いましたか?」
李生からの問いかけは常に心をえぐってくる。
「既に覚悟は出来ている。」
晴明は静かに頷く。
「必ず、直接手渡してくれ。もし、可能なら今夜にでも連れて来て欲しい。」
手紙を李生に託しながら、晴明は鋭く目線を投げかける。
「御意に。」
これにはさすがの李生も臣下の礼をして、足早に出かけて行った。



