一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

「女子は皆、買い物が好きだと思っていたのだが…。」
失敗したかと自分の不甲斐なさにため息が出る。

「いえ…楽しかったです。
だけど、それはその…晴明様が一生懸命働いて稼いだお金です。見ず知らずの私が使っていいものではありません。…何も返す事が出来ませんし…。」

鈴蘭が不意に足を止めるから、繋いでいた手が離れそうになり咄嗟にその手を握り締める。

「俺は別に見返りを求めている訳ではない。
そなたが喜んでくれたらそれだけで嬉しいんだ。
だが、考え無しで悪かった。
そうだ、何かやりたい事は無いのか?
期間限定ではあるがせっかく自由の身なのだから、今しか出来ない事をするべきだ。」

「自由の身…今しか出来ない事…?」
鈴蘭は無意識なのか、俺の手をぎゅっと握り締めながら考え始める。

それだけで嬉しいと思う俺も大概だなと、自分自身に呆れながら気長に返事を待つ事にする。

「あの…私、お勉強がしたいです。お料理を作れるようになりですし、家事も今までやらせてもらえなかったのでやってみたいです。」
思い切ったように、それでも目を輝かせて言って来る。

「勉強とは…読み書きと言う事か?
それなら容易(たやす)い俺が教えてやろう。書庫に行けば書物も沢山ある。
料理や家事全般は女中頭の油淋が1番適切だろう。」

「晴明様が…お勉強を私に教えてくれるのですか?
…お仕事が忙しいのに、ご迷惑では…。」
彼女はいつだって自分の事よりも先に、相手の事ばかりを考えてしまうんだ。

ここ数日だけでも、その謙虚過ぎる姿にいささか心配になる。

「鈴蘭、そなたはもっとわがままになるべきだ。せめて俺にだけには甘えて欲しい。なんだって叶えてやりたいし、もっと本音を聞かせて欲しい。」

真剣な眼差しでそう語りかける。
そんな俺に不思議そうな目を向けて、

「晴明様はなぜ、それほど私によくしてくれるのですか…?」

「答えは一つ。そなたが好きだからだ。
言葉だけじゃ信用出来ないかもしれないが、これから、俺という人間を知っていってくれたらいい。」
それこそが彼女に伝えたかった全てだったと、話しながら俺自身も気付いた。

「…本当の私は、何も持っていませんから…きっとがっかりされてしまわれます。」
それなのに、彼女はそう寂しそうに言ってまた歩き出す。

「俺のこの気持ちは何があっても変わらない自信はある。だてに3年もの間、そなただけを見続けてる訳では無い。出来れば…身請けしたいと思っている。」
彼女の手をぎゅっと握り締めて、先導するように足元を行燈の灯で照らす。