今宵は一夜の夢の如し
心踊る横笛の音色に合わせて、シャンシャンと鈴の音が囃し立てている。
真っ赤に塗られた舞台は、かがり火で幻想的に映し出され、沢山の観客が踊り子達を今か今かと待ち侘びていた。
ここは都の中央にあるお寺、光福寺の境内。
今年も豊作を祝う収穫祭が行なわれている。
人々は皆喜び讃え合い、大人も子供も男も女も入り乱れ、無礼講だとばかりにはしゃぎ、幸せそうな笑顔が咲き乱れている。
境内には多くの出店が立ち並び、食欲を唆る香りに包まれていた。
けれども私は憂鬱な気持ちで、その光景を簾(すだれ)の向こうから感情も無しに見つめていた…。
お寺の片隅に建てられた小さなほったて小屋の中、出番を待つ踊り子達は着替えを終えて、化粧を施し幕開けをただ待っている。
「鈴蘭姐様、今宵は真紅の口紅にしましょうか?それとも朱色の方が良いですか?」
小さな踊り子の卵である寧々ちゃんが、一生懸命お世話をしてくれている。彼女は今年13歳になったばかりだ。
「ありがとう。寧々ちゃん、あなたの好きな色で良いよ。」
私は軽く微笑んで何気なく手を伸ばし、彼女が持って来た花束を受け取る。
「これは…。」
「毎年変わらず届きますよね、スズランの花束。きっと姐様の熱烈なファンですよ。」
寧々ちゃんは自分の事のように嬉しそうだ。
「私にファンなんているのかしら…。」
この一座に来てからずっと、自由を許されない生活を送って来た。
世の中の出来事は何も知らず、聞かされず。
自分自身の事でさえも分からないまま、狭い世界に閉じ込められた生活を強いられている。
「姐様、知らないんですか?
月光一座といえば、舞は春麗姐様、唄は鈴蘭姐様って言われてるくらい人気なんですよ。」
寧々ちゃんがびっくり顔でそう言って来る。
「誰から…そんな事を聞いたの?」
寧々ちゃんだって、自由に出かけられる身ではないから、不思議に思って聞き返す。
「髪結師です。あの方実は結構なお喋りで、私達見習いには、いろいろ話して聞かせてくれるんですよ。」
いつも、髪を結ってもらっている髪結師を思い浮かべて、私は苦笑いする。
「私とは一度だって口を聞いた事などないのに…。」
「それは、御法度ですから。
踊り子と口を聞いたらたちまちクビが飛ぶって話しですよ。」
そこまで徹底して世間から隔離されていたんだと、改めて理解する。
「私って、本当に世間知らずよね…。」
ふーっと深いため息を吐く。
異性と会話を交わしたのはいつだったか…踊り子になってからは座長意外の男性と、口を聞いた事が一度もない。
そんな人間を一年後には容赦無く捨てるのね…。
心踊る横笛の音色に合わせて、シャンシャンと鈴の音が囃し立てている。
真っ赤に塗られた舞台は、かがり火で幻想的に映し出され、沢山の観客が踊り子達を今か今かと待ち侘びていた。
ここは都の中央にあるお寺、光福寺の境内。
今年も豊作を祝う収穫祭が行なわれている。
人々は皆喜び讃え合い、大人も子供も男も女も入り乱れ、無礼講だとばかりにはしゃぎ、幸せそうな笑顔が咲き乱れている。
境内には多くの出店が立ち並び、食欲を唆る香りに包まれていた。
けれども私は憂鬱な気持ちで、その光景を簾(すだれ)の向こうから感情も無しに見つめていた…。
お寺の片隅に建てられた小さなほったて小屋の中、出番を待つ踊り子達は着替えを終えて、化粧を施し幕開けをただ待っている。
「鈴蘭姐様、今宵は真紅の口紅にしましょうか?それとも朱色の方が良いですか?」
小さな踊り子の卵である寧々ちゃんが、一生懸命お世話をしてくれている。彼女は今年13歳になったばかりだ。
「ありがとう。寧々ちゃん、あなたの好きな色で良いよ。」
私は軽く微笑んで何気なく手を伸ばし、彼女が持って来た花束を受け取る。
「これは…。」
「毎年変わらず届きますよね、スズランの花束。きっと姐様の熱烈なファンですよ。」
寧々ちゃんは自分の事のように嬉しそうだ。
「私にファンなんているのかしら…。」
この一座に来てからずっと、自由を許されない生活を送って来た。
世の中の出来事は何も知らず、聞かされず。
自分自身の事でさえも分からないまま、狭い世界に閉じ込められた生活を強いられている。
「姐様、知らないんですか?
月光一座といえば、舞は春麗姐様、唄は鈴蘭姐様って言われてるくらい人気なんですよ。」
寧々ちゃんがびっくり顔でそう言って来る。
「誰から…そんな事を聞いたの?」
寧々ちゃんだって、自由に出かけられる身ではないから、不思議に思って聞き返す。
「髪結師です。あの方実は結構なお喋りで、私達見習いには、いろいろ話して聞かせてくれるんですよ。」
いつも、髪を結ってもらっている髪結師を思い浮かべて、私は苦笑いする。
「私とは一度だって口を聞いた事などないのに…。」
「それは、御法度ですから。
踊り子と口を聞いたらたちまちクビが飛ぶって話しですよ。」
そこまで徹底して世間から隔離されていたんだと、改めて理解する。
「私って、本当に世間知らずよね…。」
ふーっと深いため息を吐く。
異性と会話を交わしたのはいつだったか…踊り子になってからは座長意外の男性と、口を聞いた事が一度もない。
そんな人間を一年後には容赦無く捨てるのね…。



