鈴蘭が俺の別邸に来て初めて朝、一緒に朝食を取り束の間の会話を楽しんだ。
彼女の声には癒しの効果があるのでは無いかと思うぐらい、話している声ですら、ずっと聞いていたいほどの心地よさを感じる。
「それでは行って来る。」
出かける際、玄関での見送りに、使用人と共に鈴蘭も並んでいる事に気付き、慌てて駆け寄り彼女を使用人として扱うつもりは無いと伝える。
どう言ったって彼女は身分違いを気にかけて、俺とは釣り合わないと考えてしまうようだ。
その都度、身分は関係ないと言って退けるのだが…
本当の自分を彼女に曝け出す事の出来ない俺が、何をどう伝えたところで、今のところは信用だって得る事は出来ないだろう。
これからその事については充分時間を持って話し、受け入れて欲しいと考えている。
それがどんなに難しい事か分かってはいるが…
別邸を後ろ髪引かれる気持ちで離れ、俺が本来いるべき場所である宮殿へと馬車で戻る。
「陛下、彼女の幸せを思うなら…今回の事に決着ついたら、彼女が戻りたい場所に戻すべきです。
貴方のお母様と同じ、籠の中の鳥にしたいのですか?」
李生の意見はいつも正しい。
俺とて彼女を手に入れる事は、決して彼女の幸せには繋がらないと重々理解している。
好きだから、愛しているからとて、見えない鎖に繋がせて自由を奪うつもりは毛頭無い。
ただ、思いもよらず彼女が手の届く所にいる今、どうしたって簡単には手離せ無いし、暴力や折檻が渦巻く場所に、そう易々戻す事なんて出来ないのだ。
「分かっている。
月光一座の治安が良くなり次第、彼女が戻りたいなら戻れば良い。彼女の意志が無い限り勝手な事は出来ない。」
李生はこの目の前にいる男の事を哀れみ、はぁーと深くため息を吐く。
彼だってある意味、意志なくここまで担ぎ上げられ、自由を奪われた可哀想な鳥なのかもしれない。
自由に飛び回っていた幼き頃を思い出す。
「恐れ多くも陛下に、指し図するべき事ではありませんでした。申し訳ございません。」
今のは些か立場を忘れて言い過ぎたと、李生は素直に頭を下げる。
「そなたの考えている事は分かっている。
俺も彼女もある意味同じ、自分で自らの道を歩む事が出来ない人生だ。
だから…この瞬間の、見せかけな幸せを出来るだけ長くと思ってしまうのだろうな。」
馬車の車窓から流れる都の街並みを見つめ、遠い未来に視線を向ける。
それを言うなら李生だって然り、自分の自由に生きる事の出来ない同士じゃ無いだろうか…。
「お前も気苦労が耐えないな。
俺の側に居る事が嫌になったら逃げ出しても構わないんだぞ。」
フッと鼻で笑いながら、目の前の男の人生を憂う。
「何を仰りますか。
私は貴方を支える身、それが生まれ持っての幸せであり本望でございます。貴方が行く所なら何処でも、地獄の果てまでもご一緒する所存です。」
馬車の中、李生は両手を組んで臣下の礼をとる。
「そうか…。俺の歩く道は地獄の果てに続くのか…。」
俺は腕を組み苦笑いをして物思いにふける。
これまで沢山の人の人生を犠牲にしてここに経っている。内乱で命を落とした仲間、家族、民、彼らの屍の上に今の束の間の平和はあるのだ。
その事を忘れてはならない。
自分だけが自由に幸せになる事は、もはや許されない事なのかもしれない…。
「言葉が過ぎました。
私一個人としては、貴方に幸せであって欲しいと切望しています。彼女が貴方の抱えている傷を、少しでも癒してくれるのならば、それこそ彼女にお願いしたいくらいなのです。」
「そなたも難しい立場だな。
俺もお前も…この乱世に巻き込まれた、一つの捨て駒に過ぎないかもしれん。」
前皇帝は床に伏してはいるが、未だ、生き長らえている。
内乱を始めた第2皇太子は捕らえられ、幽閉している状態だ。いつか、民の為、この国の平和の為に苦しい処罰を下さねばならない。
その命令は現皇帝である晴明が、近々下さねばならぬ最も重い案件だ。
精神を病んでしまった第1皇太子である兄に、この政権を戻すには今の段階ではいささか頼りが無く、それでは家臣も民も納得しない。
残りの第3、第4王子はいるにはいるが、1人は第1皇太子を支援した罪で地方の辺鄙な場所に飛ばされて軟禁中。
残りの1人は毎晩飲んだくれて遊ぶ、うつけ者だ。
まともな奴はもはや俺しかいないのだ。
誰もが暗黙の了解で、俺を皇帝の座に持ち上げた。
彼女の声には癒しの効果があるのでは無いかと思うぐらい、話している声ですら、ずっと聞いていたいほどの心地よさを感じる。
「それでは行って来る。」
出かける際、玄関での見送りに、使用人と共に鈴蘭も並んでいる事に気付き、慌てて駆け寄り彼女を使用人として扱うつもりは無いと伝える。
どう言ったって彼女は身分違いを気にかけて、俺とは釣り合わないと考えてしまうようだ。
その都度、身分は関係ないと言って退けるのだが…
本当の自分を彼女に曝け出す事の出来ない俺が、何をどう伝えたところで、今のところは信用だって得る事は出来ないだろう。
これからその事については充分時間を持って話し、受け入れて欲しいと考えている。
それがどんなに難しい事か分かってはいるが…
別邸を後ろ髪引かれる気持ちで離れ、俺が本来いるべき場所である宮殿へと馬車で戻る。
「陛下、彼女の幸せを思うなら…今回の事に決着ついたら、彼女が戻りたい場所に戻すべきです。
貴方のお母様と同じ、籠の中の鳥にしたいのですか?」
李生の意見はいつも正しい。
俺とて彼女を手に入れる事は、決して彼女の幸せには繋がらないと重々理解している。
好きだから、愛しているからとて、見えない鎖に繋がせて自由を奪うつもりは毛頭無い。
ただ、思いもよらず彼女が手の届く所にいる今、どうしたって簡単には手離せ無いし、暴力や折檻が渦巻く場所に、そう易々戻す事なんて出来ないのだ。
「分かっている。
月光一座の治安が良くなり次第、彼女が戻りたいなら戻れば良い。彼女の意志が無い限り勝手な事は出来ない。」
李生はこの目の前にいる男の事を哀れみ、はぁーと深くため息を吐く。
彼だってある意味、意志なくここまで担ぎ上げられ、自由を奪われた可哀想な鳥なのかもしれない。
自由に飛び回っていた幼き頃を思い出す。
「恐れ多くも陛下に、指し図するべき事ではありませんでした。申し訳ございません。」
今のは些か立場を忘れて言い過ぎたと、李生は素直に頭を下げる。
「そなたの考えている事は分かっている。
俺も彼女もある意味同じ、自分で自らの道を歩む事が出来ない人生だ。
だから…この瞬間の、見せかけな幸せを出来るだけ長くと思ってしまうのだろうな。」
馬車の車窓から流れる都の街並みを見つめ、遠い未来に視線を向ける。
それを言うなら李生だって然り、自分の自由に生きる事の出来ない同士じゃ無いだろうか…。
「お前も気苦労が耐えないな。
俺の側に居る事が嫌になったら逃げ出しても構わないんだぞ。」
フッと鼻で笑いながら、目の前の男の人生を憂う。
「何を仰りますか。
私は貴方を支える身、それが生まれ持っての幸せであり本望でございます。貴方が行く所なら何処でも、地獄の果てまでもご一緒する所存です。」
馬車の中、李生は両手を組んで臣下の礼をとる。
「そうか…。俺の歩く道は地獄の果てに続くのか…。」
俺は腕を組み苦笑いをして物思いにふける。
これまで沢山の人の人生を犠牲にしてここに経っている。内乱で命を落とした仲間、家族、民、彼らの屍の上に今の束の間の平和はあるのだ。
その事を忘れてはならない。
自分だけが自由に幸せになる事は、もはや許されない事なのかもしれない…。
「言葉が過ぎました。
私一個人としては、貴方に幸せであって欲しいと切望しています。彼女が貴方の抱えている傷を、少しでも癒してくれるのならば、それこそ彼女にお願いしたいくらいなのです。」
「そなたも難しい立場だな。
俺もお前も…この乱世に巻き込まれた、一つの捨て駒に過ぎないかもしれん。」
前皇帝は床に伏してはいるが、未だ、生き長らえている。
内乱を始めた第2皇太子は捕らえられ、幽閉している状態だ。いつか、民の為、この国の平和の為に苦しい処罰を下さねばならない。
その命令は現皇帝である晴明が、近々下さねばならぬ最も重い案件だ。
精神を病んでしまった第1皇太子である兄に、この政権を戻すには今の段階ではいささか頼りが無く、それでは家臣も民も納得しない。
残りの第3、第4王子はいるにはいるが、1人は第1皇太子を支援した罪で地方の辺鄙な場所に飛ばされて軟禁中。
残りの1人は毎晩飲んだくれて遊ぶ、うつけ者だ。
まともな奴はもはや俺しかいないのだ。
誰もが暗黙の了解で、俺を皇帝の座に持ち上げた。



