一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

先程下ろした時から気になっていた、鈴蘭の左足首にそっと触れると、『っ痛』と、小さく声を上げる。

「やはり…足首を捻ったか。」
俺は座り込み手当てをしようと、小さな履物に手をかける。

すると、周りに隠れていた隠密達もわらわらと集まって来て、その怪我を確認しようと取り囲む。

鈴蘭が分かりやすくビクッと震えて怯えてしまう。

「ああ…この者達は味方だから安心しろ。
お前ら近い…もっと下がれ!」

興味本位に群がる隠密を蹴散らして、俺自身は鈴蘭の足首を手当てをしなくてはと、一歩も引かない。

そのタイミングでゴホンと、李生がわざとらしく咳をする。

この速さにコイツもついて来られたのかと、俺は一瞬見やる。

「若…歌姫が怯えておいでです。少し距離をわきまえて下さい。」
李生に咎められ、仕方なく少し離れ冷静になろうと立ち上がる。

暑さに負けてかぶっていた頭巾を取る。

すると鈴蘭からの視線に気付き、ああそうか…彼女に顔も見せてもいなかったのだと思い、隣にそっと腰を下ろし、初めて今までの経緯と自分自身の名を名乗る。

彼女とっては刺客と同じ、不審人物でしか無い自分に心がズキンと痛む。

ただのいちファンでしか無い。
一方的なこの想いは伝わる事はまず無くて、鈴蘭は一座に戻らなければと言い出す始末だ。

深々と頭を下げてお礼をされ、俺の側から背を向けて立ち去ろうと離れてしまう。

怪我をした足を引きずりながら、それでも気丈に1人で歩くその背中を、どうしても支えたいと歩み寄る。

「俺のせいで、そなたの立場が悪くなるの解せない。一緒に行って申し開きをさせて頂く。」

俺はそう取り持って、強引に鈴蘭を抱き上げ歩き出す。