(晴明side)
俺は1人髪結師に変装し、簡単に控え室に入り込む事に成功する。もっとセキュリティを徹底するべきだと懸念してしまうほど簡単だった。
少しの間に寧々とも合流して事の経緯を伝え協力を仰ぐ。
後は鈴蘭が控え室に戻るのを待つばかり。
己の想い人である彼女を、自らの手で守る事が出来る事に心底安堵していた。
ああ、始めて間近で彼女に会える。
その高揚感も半端なく誰よりも胸躍らせ、彼女が来るのをまだかまだかと待ち侘びていた。
その時は突然、音も無くやって来た。
小走りで走る足音を聞いたかと思うと、ガチャっと控え室のドアが開き、鈴蘭が室に飛び込んで来た。
「お願いします。」
と言うように鈴蘭がペコリと頭を下げて、先ずは衣装に着替えなければという風に、衝立の向こうに消えて行き、何の躊躇も無いまま着替え始めてしまう。
ここには他に誰もいない。
同じ空間に2人だけ…
そう思うだけで人知れず自分の鼓動が大きく脈打つ音を聞く。
いつだって冷静沈着なこの俺が…何を浮き足立っているんだと、自分で自分を叱咤する。
五分そこそこで着替え終えた鈴蘭が鏡の前の椅子に座る。話しかけることは御法度だと、本物の髪結師からくれぐれも言われている。
しかし、さすがの俺だって、恋焦がれた女子を目の前にして、冷静なままではいられないのだ。
丁寧に髪をとかしながら、外見上は平静を保って見せるが、密かに彼女に触れている事に感動し気持ちを昂らせていた。
元より皇太子の端くれとして育てられた俺は、いついかなる時でも顔色を変えず、淡々とやってのける技法は学んでいる。どんな重要な外交でさえ、ここまで心が躍った事はない。
冷静になんてやれやしない。
恋焦がれていた彼女の艶やかな黒髪を目の前にし今、触れる事が叶った事実に指が震えた。
それでも何も知らない彼女を怖がらせてはいけないと思いで、本心をひた隠し俺は髪を編む。
虎徹にはあのように言ったものの、俺とて誰かの髪を結う事なんて始めてで、かろうじて出来るのはただ一つ、士官学校で習った縄編みだけだ。
それとて人の髪に施した事は一度も無いが…。
持ち前の器用さを発揮して、なんとか丁寧に結い終わる。
自ら送ったスズランの花束が、鏡横の花瓶の中に生けられている事にここで気付く。不意に思い付き、彼女の髪へとその可愛らしい花を何本か差し込む。
小さなスズランの白い花が、サラサラと揺れて可愛らしい事この上ない。自らの思い付きに賞賛しながら、後数本髪に飾り付ける。
そこで鏡越しにその様子を見ていた鈴蘭が、フワッと微笑むから、つい『お似合いです。』と声をかけてしまう。
彼女は驚いた顔を一瞬見せて、鏡越しに目が合う。
俺は1人髪結師に変装し、簡単に控え室に入り込む事に成功する。もっとセキュリティを徹底するべきだと懸念してしまうほど簡単だった。
少しの間に寧々とも合流して事の経緯を伝え協力を仰ぐ。
後は鈴蘭が控え室に戻るのを待つばかり。
己の想い人である彼女を、自らの手で守る事が出来る事に心底安堵していた。
ああ、始めて間近で彼女に会える。
その高揚感も半端なく誰よりも胸躍らせ、彼女が来るのをまだかまだかと待ち侘びていた。
その時は突然、音も無くやって来た。
小走りで走る足音を聞いたかと思うと、ガチャっと控え室のドアが開き、鈴蘭が室に飛び込んで来た。
「お願いします。」
と言うように鈴蘭がペコリと頭を下げて、先ずは衣装に着替えなければという風に、衝立の向こうに消えて行き、何の躊躇も無いまま着替え始めてしまう。
ここには他に誰もいない。
同じ空間に2人だけ…
そう思うだけで人知れず自分の鼓動が大きく脈打つ音を聞く。
いつだって冷静沈着なこの俺が…何を浮き足立っているんだと、自分で自分を叱咤する。
五分そこそこで着替え終えた鈴蘭が鏡の前の椅子に座る。話しかけることは御法度だと、本物の髪結師からくれぐれも言われている。
しかし、さすがの俺だって、恋焦がれた女子を目の前にして、冷静なままではいられないのだ。
丁寧に髪をとかしながら、外見上は平静を保って見せるが、密かに彼女に触れている事に感動し気持ちを昂らせていた。
元より皇太子の端くれとして育てられた俺は、いついかなる時でも顔色を変えず、淡々とやってのける技法は学んでいる。どんな重要な外交でさえ、ここまで心が躍った事はない。
冷静になんてやれやしない。
恋焦がれていた彼女の艶やかな黒髪を目の前にし今、触れる事が叶った事実に指が震えた。
それでも何も知らない彼女を怖がらせてはいけないと思いで、本心をひた隠し俺は髪を編む。
虎徹にはあのように言ったものの、俺とて誰かの髪を結う事なんて始めてで、かろうじて出来るのはただ一つ、士官学校で習った縄編みだけだ。
それとて人の髪に施した事は一度も無いが…。
持ち前の器用さを発揮して、なんとか丁寧に結い終わる。
自ら送ったスズランの花束が、鏡横の花瓶の中に生けられている事にここで気付く。不意に思い付き、彼女の髪へとその可愛らしい花を何本か差し込む。
小さなスズランの白い花が、サラサラと揺れて可愛らしい事この上ない。自らの思い付きに賞賛しながら、後数本髪に飾り付ける。
そこで鏡越しにその様子を見ていた鈴蘭が、フワッと微笑むから、つい『お似合いです。』と声をかけてしまう。
彼女は驚いた顔を一瞬見せて、鏡越しに目が合う。



