本来なら3日間続く婚礼だが、晴明の立っての願いで1日に凝縮されて行われた。
他国からの要人達の中にもちろん、香の国の皇帝に晴れて任命された秀英や、悪友である聖国皇太子景勝も来ている。
今度ばかりは悪戯を仕掛けられないように、注意深く用心した。
幾つかの儀式の後お披露目の儀も滞りなく終わり、そこでやっと香蘭も華宮殿に戻りホッとひと息つく。
だがしかし、この後に渡りの儀がある為沐浴をし身なりを整えて、晴明が部屋に来るのを待たなければならない。
香蘭にしてみたらこの儀式が一番緊張する。
湯浴みを終えて女官達に丁寧に香油を塗られれば、それだけで顔から火が出るように恥ずかしいのに…晴明様と今宵…と思うだけで、失神してしまいそうな程だ。
男女の交わりにはまったく無知な香蘭だったから、花嫁修行の一環だと、宦官から手渡された書物で勉強しようっと思ったのだが、表紙を開く前に晴明から取り上げられてしまった。
「誰だ?香蘭にこんな書物を渡した者は!」
瞬時に怒りを沸騰させた晴明に、宦官は説教を喰らう羽目となった。
「香蘭は何も知らなくて良い。俺が1から教えてやるから。」
晴明はそんな甘い言葉を吐いて香蘭を宥めたのだった。
絹の滑らかな寝衣に着替えその薄さと透け具合に驚き戸惑う。
きっとこれは寧々ちゃんが選んだものだろう…と香蘭は思い、何か羽織るものはないかと部屋中探すが見つからない。
そうこうしているうちに、初夜を見届ける女官や宦官が、襖を隔てた向こう側に並び出でるのに気付く。
香蘭ははぁーっと深く息を吐き、気持ちを整え正座して晴明が来るのを待つ。
覚悟は当に出来ている。全て晴明様に委ねれば大丈夫だと確信している。だけど未知の世界に怖さもあるのは言うまでもない。
「皇帝陛下の渡りでございます。」
華宮殿の玄関に取り付けられた鈴が鳴る。あの鈴はこういう時に使うのね…。と、香蘭は頭の中で要らぬ事を考え緊張をどうにか紛らせていた。
晴明がやって来る足音が近づいて来る。ドキドキしながら香蘭は頭を下げてその時を待つ。
「皇帝陛下参られました。」
扉を守る護衛の声が華宮殿に響き渡る。
扉が開かれズカズカと香蘭の目の前で胡座を掻いて座る気配を感じる。
「陛下、お待ち申し上げておりました。」
手順通りにそう言うと、
「苦しゅうない面を上げよ。」
と、晴明がまるで定型文を読むように言う。
香蘭はそれがなんだか可笑しくてふふっと笑って顔を上げる。
晴明も一緒にハハッと笑って、香蘭を横抱きにして、
「なんて艶かしい寝着を着てるのだ…。寧々の仕業か?」
そう言って、晴明も同じように寧々を疑う。
「私も凄く恥ずかしいのですが…羽織るものもなくて…。」
香蘭も真っ赤になって俯いてしまう。晴明はフッと笑い歩き出す。
「え、えっ…⁈」
香蘭は訳が分からずその広い肩にしがみ付くしかない。
寝台まで辿り着くと晴明は、壁をじっと観察し始める。そして何かに気付いたように壁板を押す。すると音も無くクルンと板が回転して穴がぽっかり空いたような、暗闇が現れた。
「これは…?」
「もしもの時に使う脱出通路だ。ここから出るぞ。」
「そ、そんな事をして大丈夫なのですか?」
香蘭は心配になって聞き返す。
後宮を解体したとは言っても、昔から続く伝統的な儀式だと聞いている。
誰かに聞き耳を立てられているというのはとても恥ずかしいけれど、式たりなのだと言われたら従うしかないと思っていた。
「我を誰だと思っている?この国を治める皇帝だぞ。」
晴明はそう言ってニヤッと笑い、香蘭を片手で抱え直し、片手には行燈を持ちその暗闇へと飛び込んで行く。
地下に繋がる階段を下り、地下通路をずんずんと歩いて行く。幾度か分かれ目がある道を、晴明はまるで知った道のように歩く。
「多分、ここだ。」
階段のある場所にたどり着き、登って扉を開けるとそこは宮殿の廊下だった。
「さぁ、後少しだ。」
晴明はまた香蘭を抱き上げて歩き出す。
こうされると、出会った日の事を思い出す。
「晴明に初めて会った日の事が思い出されます。こうして担いで逃げて下さいましたね。」
香蘭は物思いに浸る。
「あの日あの時、そなたを助け出せたから今があるのだな。」
晴明もしんみりと言う。
仄暗い廊下に行燈1つの灯りだけ。
それでも怖いと思わないのは晴明様が一緒だからだ。この先もこの方のお側に居たら何も怖い事はない。確信にも似た安心感が心に広がり、香蘭は晴明をぎゅっと抱きしめた。
「怖いか?もう直ぐだから辛抱してくれ。」
晴明はそう言って励ます。
「いえ。晴明様が居れば怖くはありません。」
フワッと微笑む香蘭が可愛くて、堪らずその唇にそっと口付けをする。
他国からの要人達の中にもちろん、香の国の皇帝に晴れて任命された秀英や、悪友である聖国皇太子景勝も来ている。
今度ばかりは悪戯を仕掛けられないように、注意深く用心した。
幾つかの儀式の後お披露目の儀も滞りなく終わり、そこでやっと香蘭も華宮殿に戻りホッとひと息つく。
だがしかし、この後に渡りの儀がある為沐浴をし身なりを整えて、晴明が部屋に来るのを待たなければならない。
香蘭にしてみたらこの儀式が一番緊張する。
湯浴みを終えて女官達に丁寧に香油を塗られれば、それだけで顔から火が出るように恥ずかしいのに…晴明様と今宵…と思うだけで、失神してしまいそうな程だ。
男女の交わりにはまったく無知な香蘭だったから、花嫁修行の一環だと、宦官から手渡された書物で勉強しようっと思ったのだが、表紙を開く前に晴明から取り上げられてしまった。
「誰だ?香蘭にこんな書物を渡した者は!」
瞬時に怒りを沸騰させた晴明に、宦官は説教を喰らう羽目となった。
「香蘭は何も知らなくて良い。俺が1から教えてやるから。」
晴明はそんな甘い言葉を吐いて香蘭を宥めたのだった。
絹の滑らかな寝衣に着替えその薄さと透け具合に驚き戸惑う。
きっとこれは寧々ちゃんが選んだものだろう…と香蘭は思い、何か羽織るものはないかと部屋中探すが見つからない。
そうこうしているうちに、初夜を見届ける女官や宦官が、襖を隔てた向こう側に並び出でるのに気付く。
香蘭ははぁーっと深く息を吐き、気持ちを整え正座して晴明が来るのを待つ。
覚悟は当に出来ている。全て晴明様に委ねれば大丈夫だと確信している。だけど未知の世界に怖さもあるのは言うまでもない。
「皇帝陛下の渡りでございます。」
華宮殿の玄関に取り付けられた鈴が鳴る。あの鈴はこういう時に使うのね…。と、香蘭は頭の中で要らぬ事を考え緊張をどうにか紛らせていた。
晴明がやって来る足音が近づいて来る。ドキドキしながら香蘭は頭を下げてその時を待つ。
「皇帝陛下参られました。」
扉を守る護衛の声が華宮殿に響き渡る。
扉が開かれズカズカと香蘭の目の前で胡座を掻いて座る気配を感じる。
「陛下、お待ち申し上げておりました。」
手順通りにそう言うと、
「苦しゅうない面を上げよ。」
と、晴明がまるで定型文を読むように言う。
香蘭はそれがなんだか可笑しくてふふっと笑って顔を上げる。
晴明も一緒にハハッと笑って、香蘭を横抱きにして、
「なんて艶かしい寝着を着てるのだ…。寧々の仕業か?」
そう言って、晴明も同じように寧々を疑う。
「私も凄く恥ずかしいのですが…羽織るものもなくて…。」
香蘭も真っ赤になって俯いてしまう。晴明はフッと笑い歩き出す。
「え、えっ…⁈」
香蘭は訳が分からずその広い肩にしがみ付くしかない。
寝台まで辿り着くと晴明は、壁をじっと観察し始める。そして何かに気付いたように壁板を押す。すると音も無くクルンと板が回転して穴がぽっかり空いたような、暗闇が現れた。
「これは…?」
「もしもの時に使う脱出通路だ。ここから出るぞ。」
「そ、そんな事をして大丈夫なのですか?」
香蘭は心配になって聞き返す。
後宮を解体したとは言っても、昔から続く伝統的な儀式だと聞いている。
誰かに聞き耳を立てられているというのはとても恥ずかしいけれど、式たりなのだと言われたら従うしかないと思っていた。
「我を誰だと思っている?この国を治める皇帝だぞ。」
晴明はそう言ってニヤッと笑い、香蘭を片手で抱え直し、片手には行燈を持ちその暗闇へと飛び込んで行く。
地下に繋がる階段を下り、地下通路をずんずんと歩いて行く。幾度か分かれ目がある道を、晴明はまるで知った道のように歩く。
「多分、ここだ。」
階段のある場所にたどり着き、登って扉を開けるとそこは宮殿の廊下だった。
「さぁ、後少しだ。」
晴明はまた香蘭を抱き上げて歩き出す。
こうされると、出会った日の事を思い出す。
「晴明に初めて会った日の事が思い出されます。こうして担いで逃げて下さいましたね。」
香蘭は物思いに浸る。
「あの日あの時、そなたを助け出せたから今があるのだな。」
晴明もしんみりと言う。
仄暗い廊下に行燈1つの灯りだけ。
それでも怖いと思わないのは晴明様が一緒だからだ。この先もこの方のお側に居たら何も怖い事はない。確信にも似た安心感が心に広がり、香蘭は晴明をぎゅっと抱きしめた。
「怖いか?もう直ぐだから辛抱してくれ。」
晴明はそう言って励ます。
「いえ。晴明様が居れば怖くはありません。」
フワッと微笑む香蘭が可愛くて、堪らずその唇にそっと口付けをする。



