一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

晴明は心の中を悟られぬよう押し殺し、平気な振りをして劉進を見やる。

「劉進殿、何をお間違えになられたか知らないが、この者達はただの暇つぶしの道具にしかあらず。そなたが盾としたところで、余には何の痛手でもないぞ。」

何事も無いような振りを演じ、一歩、また一歩と劉進と寧々の方に近付いて行く。

「近付くな!それ以上近付いたらこの女の命ないと思え!!」

劉進は怒りで血走った目を晴明に向け、精一杯威嚇する。

その傍には頭巾を被った刺客が3人、主人を守る為晴明に剣を向けている。

そのタイミングで晴明は目で寧々に指示を出す。

寧々も目だけで頷き理解を示す。

「お前ら怯むな!憎き晴明の首を取れ!!」
劉進はそう言って刺客を焚きつけ隙を狙って、一歩一歩ジリジリと濡れ縁の縁まで後退する。

その声を合図に、『ヤーーッ!!』と刺客達は叫び一斉に晴明に襲いかかる。

それに素早く反応した李生と、駆け付けた虎徹が咄嗟に飛び出し、その剣を払いのける。

カキンカキンッと澄んだ青空に剣が交わる音が響く。

お互い一対一での真剣勝負を繰り広げる。

その間に1人残った刺客が攻防戦をかい潜り、晴明の脇に踊り出る。

ここまで早く来る為に全ての重荷を脱ぎ捨ててきた晴明は丸腰だ。

切りかかってくる刺客の剣を巧みに交わし、素早い速さで懐に入り瞬時のうちに剣を叩き落とす。

あわあわとする刺客が剣を拾おうとするが、すかさず足で蹴り遠くに飛ばしたかと思うと後ろに回り込み、相手の首裏に一撃して峯鞭を喰らわす。

全ての動作は一瞬の如く。
やられた刺客は地面に伸びる。

その瞬間、寧々は劉進の隙を見てスッとしゃがみ、それを合図にずっと弓を構えていた洋がすかさず矢を射る。

全ての者達の動きがまるで事前に組まれてたかのように、1つの所作の如く均一が取れていた。

洋の放った矢は、見事に劉進の右二の腕に刺さり、短剣がカランと音をなして地面に落ちる。

それを素早く寧々が拾い、味方の兵士達の元へ全速力で走り寄った。

呆気にとられた兵士達もそれを合図に我に返り、駆け寄る寧々を確保する者、劉進を捕らえ縄をかけてひっ捕えらる者と分かれ、それぞれがそれぞれの役割を果たす。

晴明は全てが終わった事を見届けて、サッと香蘭に駆け寄る。

香蘭は未だ短剣を喉元に向けたまま固まっている。
「…晴明…様…。」
震える唇で微かに囁く。

「…香蘭、もう大丈夫だ。怖い思いをさせて悪かった。」
固まり動けなくなった短剣を握る香蘭の手を、晴明はそっと両手で握り剣先を慎重に遠ざけた。

その手が微かに震えているのを悟ると、香蘭もやっと力が抜けて短剣がカランと落ちた。

「…晴明様…?」
心配になってその見つめてくる強い眼差しを、やっとしっかりと見つめ返す。

「…そなたを失うかと思ったら…怖かった。」
そう呟いて小さな身体を抱きしめて、彼女が生きている事を確かめる。

先程の威厳たっぷりに、ただの道具と言い切った晴明と同一人物だとは思えない。

だけどその全身全霊で守り抜いてくれた全てが愛しくて、香蘭も震える大きな背中をそっと抱き締め返した。


ひっ捕えられて連れて行かれる劉進が、その2人の姿に怒りを込めて睨みつける。

「どいつもこいつもふざけやかって…!!」
まんまとやられたと喚き散らし、兵達を最後まで手こずらした。

「あれが、王と語っていた男の最後か?なんたる情けない姿。」
李生が残りの刺客を縛りつけながら、劉進の姿を見て鼻で笑う。それに比べて我が皇帝はさすが人間が出来ている。と心で称賛する。

そして、当たり前のように香蘭を抱き上げ、 

「後は任せた。」
と去って行く。その後ろ姿を神々しい者を見るような顔で兵達と共に李生も見つめていた。