一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

晴明、李生は兵士が先導する先を目指し、階段をひとっ飛びに駆け上がり三階廊下まで辿り着く。
そこで兵士は倒れ込み、これ以上走れないというほど息を切らす。

「…いち…ばん、奥…」
途切れ途切れ指を指す方向へ晴明は全速力で走り出す。着ていた皇帝の衣装も冠も何もかも重たく感じ、走りながら脱ぎ捨てて行く。

「香蘭!!」
飛び込んだ部屋の角に濡れ縁があるのが目に入る。
晴明達が駆け寄ると、とんでもない光景が目に入る。

「…どういう事だ⁉︎」
なぜか劉進は寧々を人質に首に短剣の切先を向けている。その向かいに香蘭の後ろ姿が見える。

「寧々殿が身代わりに人質に…それを救う為に香蘭様が自分を犠牲にされて…。」
兵士と一緒に駆けつけた洋がそう説明する。

他の兵士達数人も剣を劉進に向け構えたままだ。

「…なるほど、分かった。俺が奴を惹きつけるから、隙きを狙い右腕に弓を放て。」
小声でそう洋に指示を出す。

「承知しました。」
洋は軽く頭を下げて狙いを定め弓を構える。
少しでも狙いがずれたら寧々に当たる。失敗は許されない…。
緊張感の中、ごくんと息を呑みその時を待つ。

そして晴明は、乱れた着物と髪をサッと直し、堂々とした態度で劉進の前に踊り出る。

「劉進殿、こんなところで何をしている?
この平和な聖国で血を流す事は許されない。皆、剣を納めよ!」
低く鋭い晴明の声が青い空に響き渡る。

緊張感の中にいた3人はビクッと身体を揺すり、一斉に晴明を見る。

皇帝の衣装を着ていなくても、皇帝の証である冕冠をかぶっていなくとも、そこに立つ男は正に皇帝でありその場にいる全ての人を魅力する。

晴明の一声で兵士達は一斉に剣を鞘に納め、片膝をついて臣下の礼をとる。

振り返った香蘭は、震える手で短剣を自らの首に押し付けている状態のまま固まっている。白く柔らかな肌に薄っすらと赤い鮮血が浮かんでいるのが見える。

晴明を見つめるその大きな瞳から今にも涙が溢れそうだ。

その短剣は今朝、護身用の為に彼女に渡した晴明の物だ。

そんな風に使わせる為に、渡した訳では決してないと、晴明の心がズキンと痛む。