一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

(晴明side)

そしてついに対決の時、
その日は朝からしとしとと小雨が降っていた。

晴明は少しの肌寒さを感じ、なかなか布団から出れないでいる。一緒に連れて来た香蘭が、隣でスヤスヤと眠っているその姿をしばらく眺めて癒される。

寝台を共にする仲にはなったが、未だに清い関係を貫き通している。

それはひとえに、タカが外れたら彼女一色に染まってしまうだろう自分が分かるからだ。

成すべき事を成し、全てを片付け婚礼の儀を迎えるまでは…。

そう心に決めてそれまではこの距離を保ち、男として彼女からの信頼を得たいのだ。なによりも大切な彼女を守るため、害になる全てを排除する。そのためにも今日は大事な分岐点となる。

身じろぎと共に香蘭の目が薄っすらと開く。それだけで嬉しくなってしまうほど、既に彼女に溺れている事を自覚する。

「おはようございます…晴明様…。」
ぼぉーとした頭でフワッと笑う香蘭の、この瞬間の笑顔が堪らなく好きだ。

おそらくこの笑顔は俺だけしか知らないだろう特別なものだ。

「おはよう。よく眠れたか?」
頬をそっと撫ぜると、すりすりと擦り寄ってくるその仕草も堪らない。

「はい…晴明様は?…ちゃんと、寝られましたか?」
まだ眠そうな舌足らずな話し方も可愛くて、構い倒してしまいたい衝動に駆られる。

「香蘭がいてくれたから良く寝れた。
今日はすまないがこの部屋から出ないでくれ。念には念を入れないと何が起こるか分からない。」

香の国には香蘭が来ている事は知られていない。だけど、もしも知られて命が狙われるような事があってはならない。

「はい…。寧々ちゃんと刺繍をして過ごそうと思います。」

「刺繍?」

「はい。晴明様が育った所では、婚礼の儀に新郎様が身に付ける衣装に、刺繍を施す風習があるそうなんです。私もやってみたくて、最近習い始めたんです。」
楽しそうに話す香蘭が愛しくてそっと抱きしめ、

「俺の為にありがとう。楽しみだな。」
と礼を言う。

「お式までには間に合わせなくてはいけません。時間がいくらあっても足りないくらいです。」
香蘭が思っていた以上に婚儀に前向きなのが分かり、良かったとホッとする。

「楽しいなら良いが…あまりこんを詰めないように。当日に体調を崩しても意味がない。」
香蘭の事になると、心配が過剰になる。

「大丈夫です。いろいろな人に手伝ってもらいますから。」

そんな幸せで満たされた話しを交わし、もう少しだけと寝台で2人起きれなくなっていると、タイミング良く寧々が香蘭を起こしにやって来た。

そこからは怒涛の如く身だしなみの支度が始まり、香蘭と引き離されてしまう。

晴明は、朝食くらいは一緒に摂りたかったとボヤきながら、家臣達と会談に向けての打ち合わせをする。