一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

聖国と香の国との境の地で、今回の会談は開かれた。
先に到着したのは晴明率いる万世国。

そして、その1日遅れで到着したのは香の国の国王劉進一行だった。

「お待ち申し上げておりました。国王劉進様。」
三国交えての夕食会で、悪意も無く聖国の皇帝亜聖(あせい)が言う。
彼は晴明の友人である景勝(けいしょう)の父であり、晴明が留学中にお世話になった人の1人だ。

気さくで朗らかで、皇帝とはこうあるべきだと教えてくれた人物だった。

「いやいや…ちょっと忙しくて、こちらに早く来たかったのだが、お待たせして申し訳ない。」
国王劉進は何事もないような言い方をする。

だが、香の国から戻って来た虎徹の話では、政府に不満を持つ者達に寄って次々に劉進の悪事が暴かれ、国中で反乱が起こり始めているとの事だ。

よくもまぁ、そんな状態の国から抜け出して来たものだと、晴明は内心呆れていた。

「これはこれは、晴明殿。余は忙しい中わざわざそなたに会いに来たのだぞ。共に国交正常化を目指そうではないか。」
劉進が高笑いをしながら晴明に近付いて来て、半ば強引に手を引っ張られ両手で握られる。

「お久しぶりです。劉進様…お忙しいところわざわざお越し頂きありがとうございます。」
晴明は表面状はにこやかな笑顔を見せてはいる…が注意深く様子を伺う李生は、目の奥が決して笑ってない事を悟り背中が凍る。

「さぁさぁ募る話しもありそうですし、早くお席にお座り下さい。」
李生は気を利かせ自ら犠牲となって、劉進の背中を押して席にと誘う。

「晴明殿もそうだが万世国は皆、美男子ばかりだなぁ。君の顔も嫌いじゃない。」
そう李生に微笑んでくる国王劉進にゾッとしながら、なんとか笑顔で切り抜けた。

「今宵は大いに飲み明かそうじゃありませんか。」
聖国国王の亜聖の挨拶で、三国の王達はそれぞれグラスを合わせ乾杯をする。

「晴明殿は酒に強いからなかなか落とせないなぁ。」
香の国国王劉進が、ハッハッハッと豪快に笑う。
万世国皇帝晴明は、落とされてたまるからと腹の底から思いながら、愛想笑いをして受け流す。

「晴明殿は剣士でもあるからなかなか手強いはずです。
この前の武道会は私も拝見しましたが、瞬発力が素晴らしい。息子にも是非、稽古をつけてもらいたいくらいだ。」
亜聖が話しの軌道を変える。

「今年は結構手こずりました。年々強い剣士が出て来ていますし、面目を保てるうちに引退するべきかと思っているくらいです。」
謙遜も込めて晴明が言う。

「まだまだそなたは若い。これからもっと進化する筈。それに春には結婚するのだろう?楽しみな事だ。」
亜聖はいつも父親のような目で晴明を見守ってくれている?

「結婚に関しては、今まで亜聖国王にも心配されておりましたので、これで安心して頂ければと思います。」
晴明にとって亜聖は本当の父親よりも近い存在であり、気さくに話せる間柄だ。

「しかし我が国の前国王の姫とは誠ですかな?行方知れずになってもう20年近くになるからして、なかなかに信憑性にかける話ではないか。
晴明殿にはもっと相応しい相手がいるのではないだろうか。」
劉進が含み笑いをするから、晴明の心が逆立つ。

「劉進殿、憶測でそのような物言いをするのは頂けない。彼女はとても心が綺麗で素敵な女性だ。なんせ勝利の女神だと我が国でも今や大人気だ。」
亜聖が懸念して場を取り繕う。

そう。あの武道大会以来、香蘭の評判は上々で勝利の女神だと持て囃されれるくらい有名になっていた。晴明にとっては要らぬ心配が増えてしまったのだが…。

指摘された劉進は面白く無さそうに咳払いをする。

「しかし、劉進殿はまた新しい側室を迎え入れたようですな。羨ましい限りです。」
さすが亜聖だ。落とすだけでなくちゃんと持ち上げて、気分を害さないように持っていく。

こうして水面下では腹の探り合いをしながら、表面状はにこやかに初日の夕食会幕を閉じた。