一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

香蘭も寧々も驚き顔で、向かいから走り寄ってくる晴明を出迎える。

「…香蘭!」
その声に香蘭も嬉しくなって、思わずその逞しい胸板に飛び込む。するとフワッと抱き上げられてぎゅっと抱きしめられる。

香蘭は晴明の首元に抱き付きながら、
「お帰りなさいませ、晴明様。お待ち申し上げておりました。」
と、満面の笑みを見せる。

「俺も早く会いたかった…!」
そう言って香蘭を抱きしめたまま動かなくなる。
晴明は走ったせいで軽く息を乱しながら、その柔らかな温もりを全身で堪能し、やっと帰って来れたと実感した。

「どうか…されたのですか?
帰路で体調を崩された時きましたが、大丈夫ですか?」
抱き上げられたままの状態で、香蘭は晴明の顔を覗き見る。

「大丈夫ではない…そなた不足で死にそうだった。」

ただ事では無いほど疲弊して見える晴明を思いやって、寧々はそっとその場を離れる。

「ご無事で…何よりです。」
子供の様にすがって来る晴明が心配になって、その広い背中を撫ぜて労う。

そのまま晴明は香蘭を片手で抱き上げたまま歩き出す。

部屋まで到着して、寝台まで運ばれたと思ったらバサバサと上衣を脱がされる。香蘭は戸惑いながらもその手を止める事も出来ず、されるがままの状態で…。

晴明はそんな香蘭の戸惑いを気にも止めず、自分の羽織っている皇帝着も鬱陶しそうに脱ぎ捨てる。

そのままコテンと香蘭を抱いて横になる。
その柔らかな胸元に顔を埋めて目を閉じれば、優しく頭を撫ぜてくれるから…。
心底深く安らぎを得る。

自分が戻るべき場所はここなのだと強く実感した。

「香蘭…愛している。しばらくこのままで…。」

「私も…お慕い申し上げております。」
香蘭も恥ずかしながらそう伝えると、やっと顔を上げた晴明が嬉しそうに乞うようにそっと、香蘭の唇に口付けを落とす。

「沢山の手作りのお菓子をありがとう。どれだけそれに救われたか分からない。
今回の外交は本当にあり得ないくらい疲弊した。…香蘭を連れて行けばよかった。」
初めて仕事の事で弱音を吐く晴明を見る。

「それは…大変でしたね。少しお眠りになりますか?それか何か暖かい飲み物でも…。」
香蘭が気を利かせて起き上がろうとするのに、

「何も要らない。そなたがいればそれで良い。」
と、また抱き寄せられて身動きが取れない。

どうやって癒してあげるべきか分からない香蘭だけど、このままそっと寝かせてあげる事が1番かと、小さな声で子守唄を唄う。

それは晴明の耳に優しく届き、幸福感と安心感に一瞬に包まれた。

逆立っていた気持ちが一瞬で穏やかになる。

どんな睡眠薬よりも1番効果があると思いながら、逆らう事無く眠りに落ちた。