一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

そして正午前、号外として香蘭の出生の事実を発表する少し前に、無事香蘭と会う事が叶う。

それを李生から知らされ、軍事会議を終えたばかりの俺は、役人の衣装に着替えて執務室を出る。

なぜ婚約者同士がコソコソ合わなくてはならないのか不服ではあるが致し方ない。

李生が示した裏庭にある秘密通路に行く。
そこには寧々と共に後宮を抜けて来た香蘭が来ていて、嬉しさの余り顔を見た瞬間抱きしめる。

「会えて良かった…。大事な時期に後宮を抜け出してもらって済まない。こうでもしないと会え無くなってしまったんだ。」
俺の悲痛な声を聞き、香蘭もまた会いたかったと抱きしめ返してくれる。

「後宮の式たりの書物を読ませて頂きました。いろいろな作法や心構えがあるのですね…。李生様にも聞きましたが、婚儀を終えるまでは公には会えないと…。」

「そなたは後宮の事なんて学ばなくて良い。式たりなんてクソ喰らえだ。」
皇帝らしからぬ言葉を吐いて、香蘭が驚きそしておかしそうに笑う。

良かった…彼女はいつだってどこにいたって柔軟に、しなやかにその立場を楽しみ、上手くこなしてくれる器用さがある。

「私は晴明様に従うのみです。」
そう言って朗らかな笑顔を見せてくれる香蘭に安堵した。

それから、本来の目的であった号外の話しを無事に伝え、しばらくはその身を守る為にも、後宮にいて欲しい事を伝えた。

そして1番懸念していた後宮での渡りの事。
全ての噂は誤解だとやっと伝える事が出来、幾分ホッとした。

「晴明様を疑った事は無いのです。ただ、親しくされている姿をお見受けするとどうしても…。」
香蘭の可愛い嫉妬心も聞けて内心嬉しく思う。

「いついかなる時でも、自分から触れたいと思うのは香蘭、そなたの事だけだから心配するな。」

伝えたい事は伝えられた。
会いたい時に会える手段も、密会ではあるが確保は出来た。

不思議なもので心が安定すると何だって上手く行く気がしてくる。