一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

(晴明side)

杏のお粗末な舞台を我慢して観る。
本人だけは意気揚々としているが、なんたる幼稚なお遊戯会を観ているような気分になった。

それもそうだ、月光一座の見事な演目の後なのだから、どんな芸だってくすんで見えてしまう。

それほどまでに完璧で素晴らしい踊りを見せてくれた香蘭を、早く労いたいのだが…。

舞台が終わるなり直ぐに近づいて来た杏妃が、先程から興奮冷めやらぬというように1人喚き立てている。

香蘭はそれを仏の様な心で微笑み、相槌まで打って聞いているが…。もう、疲れているに違いない。朝から俺に会いに来てくれた上に、先程の舞だ。

一座を出て1ヶ月は経っている。きっとぶっつけ本番だったに違いないが、一寸の狂いも無く涼しい顔で踊り終えて見せてくれた。

さすが私の香蘭だと心で称賛する。

『皇帝たる者、いついかなる時であろうとも心を動かさず、ただそこに居なければならない。』
師の教えが不意に頭をよぎる。

先程からの杏妃の不躾な態度には目に余る。イライラが積もるし今すぐここで咎めてやりたい。

だが、しかし…。

皇帝として、今は心を動かさず冷静で居なければならない。そう自らを制し感情を消し、杏妃の独りよがりのおしゃべりを聞き流す。

「余は疲れた、これで帰る。」
やっと杏妃の話しが途切れたところでスッと席を立つ。
それでも香蘭の手は決して離さないと握り締め、彼女も誘って後宮へと足を向ける。

早く2人きりになりたい。香蘭を癒したいし癒されたいのだ。

そんな俺の内心など誰も気付かないだろうと思うくらい、表向きは淡々と表情を変えず、冷酷な皇帝を演じ切る。

「陛下…今のはいささか強引では…?」
はたから見ていた李生が駆け寄り、俺に小声で咎めてくる。

どうしたってこの男だけは昔から、俺の心情は隠しきれない様だ。

「香蘭が疲れている、これ以上長居は無用だ。」

「…御意に。」
問答無用と、ジロッと睨みを利かせて李生を敬遠する。

そしてやっとの思いで後宮に戻るのだが…。