一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

午後からは先程よりは時間のかかる試合になって来た。息を呑むほどの際どい戦いもあったが、さすが晴明、決勝まで上り詰めた。

秀英はというと5試合目の戦いで有効を取られ、相手有利の戦いになり、最後は同点まで粘ったのだが惜しくも敗退となる。

決勝は是非近くで観たいと言う秀英の為、香蘭もその横で観戦する事となる。

控え室の上から観ていた時と違い、観客席からの歓声や悲鳴にも似た怒号に臨場感を感じ、香蘭も手に汗握るほど緊張して来る。

「私ちょっと、気分転換を…。」
決勝戦15分前、気持ちをどうにか落ち着けたくて、香蘭は寧々と共に、人気の少ない木陰で少し新鮮な空気を吸う事にする。

「どうしましょう。私の方が緊張してしまって…これではまともに観ていられないわ。」
香蘭はそう言って何度も深呼吸する。

「無理もありません。何度も観てきた私だって決勝戦はいつも緊張してしまいます。」
寧々も同じく深呼吸する。

そんな2人がいる事に気付かれず、不意に背後で不審な会話が聞こえてくる。

「…剣に毒を塗り付けておいた。…少しでも傷を負わせれたら……」
何やら物騒な話しで、盗み聞いた2人は身を震わせて顔を見合わせる。

「陛下が大変…!こうしてはいられないわ。万が一の為解毒剤を…。」
怪しい者が立ち去ったのを見届けて寧々は慌てて立ち上がる。するとサーっと風が吹いて、いつものように虎鉄が顔を出す。

「解毒剤はこれを。俺は陛下に今の話をお伝えして来る。」
そう言って虎鉄が走り出そうとした時、会場から一際大きな声援が聞こえて来る。

「…一足遅かったか…。」
どうやら晴明が会場入りしたようだ。
慌てて3人は観覧席に走るが…

晴明は既に決勝戦の舞台の上だった。
解毒剤を渡す事が出来なかった…どうしよう…どうすれば…香蘭の顔に不安が滲む。

「陛下が大会で擦り傷を付ける事は稀な事。大丈夫です。刀に掠らなければ良いのだから…。」
虎鉄がそう言って香蘭を慰める。

「何かあったら…。」
香蘭は不安と恐怖で頭が一杯になる。

解毒剤の瓶を握り締め、どうか何事も起こりませんようにと祈る事しか出来ない。