一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

その頃一方晴明は、別の意味で寝不足だった。

ここ連日の後宮での渡りで夜も寝れずに側室達への説得を試みていた。

後宮から出だ後も申し分無い良い条件を示した筈だ。
金一封に新たな嫁入り先も提示した。これ程の好条件にも関わらず、なかなか側室達から良い返事は返って来ない。

それよりも、なぜか毎晩詰め寄られベタベタと体に触れられ、いろいろな作戦で晴明を落とそうとして来るのだ。

そんな事をされても当の本人はまったく持って気持ちを動かす事は無く、ただただ疲弊して香蘭に会いたいという思いだけが積もるだけだった。

香蘭に対して後ろめたい気持ちは何もないのだが、彼女にも先の未来を考えて欲しいと言った手前、連絡を取る事も気が引けて、迷いに迷ってここ2週間は会う事が出来なかった。

「はぁー、疲れたな…。」
晴明は毎朝の鍛錬を終え、独り言のように呟く。

「何を言ってますか。大会はこれからなのに、鍛錬で疲れてどうするのですか。」
側にいた李生はそんな晴明に、はっぱをかけるつもりで声を大にして背中を押す。

「そういう事ではない…。
香蘭に会えなくて心が疲弊しているのだ。正直大会どころでは無い。」
珍しく弱気な晴明に、さすがの李生も心配になってくる。
「しかし…今回は秀英様もお忍びで出場します。今、ここで強い陛下を見せなくては、秀英様に示しがつきませんよ。」

「分かっている…。」
自分が成さなければならぬ事は全て承知している。強い皇帝でいなければ、諸外国どころか家臣達にも舐められる。

負けられない試合だ。
ここ3年は勝ち続けている。今年だってなかなかに強者揃いと聞いているから、力を抜いてなどいられない。

ただ…何か気持ちが乗らないのは、寝不足のせいか…香蘭に会えないせいか…。

晴明は一つため息を吐き、何気なく控え室から会場に目を向ける。2階にある控え室は会場を見下ろすような場所にあり、既に我先へと観衆の波が何処からともなく押し寄せている。

今年は平民も観覧出来るよう券を抽選で配布したのだと聞く。これはいよいよ負けられないのだが…
…晴明の気持ちは未だ戦いには向かっていかない。

これでは今年の優勝は無理かも知れないと、李生も深いため息を吐く。

変装の為に用意した護衛の衣装に身を包んだ晴明は、それでもなお窓の外を見てぼぉーっとしていた。

えっ…!?
急に目に飛び込んで来た女中に何故か目を奪われる。

見間違えだろうか…?
会いたい気持ちが募り過ぎて幻覚まで見えているのか…⁈

だが、どう見ても群衆の中、その女子だけが鮮やかに映る。

己の目を信じるならば、そのように映るのはただ1人この世で香蘭だけだから、慌てて椅子から立ち上がり怒涛の如く走り出す。