一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

それから1週間をかけて晴明は側室2人と話し合う為、交互に毎晩渡りを繰り返す。

後宮で支えている者達の間では、遂に世継ぎを作る気になったのだとか、婚約者様を失って自暴自棄になっておられるだとか、いろいろな噂が飛びかった。

今まで後宮にあまり近寄らなかった皇帝陛下が、毎晩いる事態に活気立ち、お祭り騒ぎのように陰で騒ぎ立てていた。

だから、別邸に身を隠し生活していた香蘭の耳にも、その異常事態は程なくして伝わる事となる。

晴明が最近帰って来ないのは、私に考える時間を与える為なのだと思っていた香蘭だから、その噂話を耳で聞き、大きなショックを受けたのは間違えない。

「私は晴明様に見限られてしまったのかしら…。」
遂には寧々にまでそう呟いて気持ちを落とす香蘭だったが、あの溺愛振りを見てきた寧々は、あの堅物陛下が心変わりなんて考えられないと香蘭を励ます。

そして、それから一週間が経ち、ヤキモキして見守っていた寧々だが、全く進展の見られない2人の為に一石を投じる。

「姐様、明日宮廷で武道大会が開かれます。陛下は毎年この武道大会に、身分を隠して参加されます。きっと香蘭様が応援にこっそり駆けつけたら喜びます。
甘いお菓子でも作って行ってみましょうか?」

「お邪魔にならないかしら…。」
いつだって遠慮気味の香蘭だから、一度は懸念して歩みを止める。だけど…ここ2週間程顔を見ていないばかりか、お手紙さえも下さらない。
一座と共に旅をしていた時でさえ、週に一度の手紙を欠かさなかった晴明が、やはり心変わりされたのかもと心配は果てしなく…。

「行ってみようかしら。遠くから一目見るだけでも…。」
会いたくて恋しいのは香蘭だって、他の女子と同じなのだから、一目だけでも見たいと思い腰を上げる。

「寧々、あまり香蘭殿を掻き立てるのは頂けない。陛下が心変わりする事はまずあるまい。毎晩渡りをされるのも意図があっての事だ。」
陰で見ていた虎鉄がそう言って、面白がっている妹を嗜めるのだが…。

「だって背中を押さなかったら、姉様の事だからこのまま本当に姿を消してしまわれるかも知れないわよ。女心の分からない堅物達には任せてられないわ。」
と、寧々は言ってのける。

確かに兄である虎鉄は、陛下に輪をかけたくらいの堅物だから、女子の気持ちは到底分からずぐうの音も出ない。