一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

(晴明side)

婚礼の儀を白紙に戻すとなると、香の国の革命は勢いを抑制させる懸念はある。香蘭が亡くなったという噂も払拭する事も難しい。国を揺るがしかねない事態だ。

だがしかし、彼女の心を置き去りにして結婚の話を進める訳にはいかない。俺の全てをかけてもそうしなければならないと、頭の中で警告音が鳴っている。


翌日、宮殿の執務室でその事を李生に伝える。

「ちょっと待ってください。結婚の儀の準備は着々と進んでいますし、招待状も書き始めています。既に多くの手が携わっている状態なのです。」
慌てふためき李生が言う。

「香蘭は行方知らずと公に出そう。そうなれば婚礼の儀を白紙にする事は容易い。」

「しかし…香の国との絆は!?秀英殿にはなんて伝えれば…。あの国はもはや一刻を争う程内政が緊迫しています。ここで我が国との繋がりがあるか無いかは大きく変わっていきます。」

「婚礼の儀の代わりに、秀英殿との公約を大々的に交わす舞台を設ける。内乱となれば我が自衛団も喜んで送り出す事に変わりはない。」 

「…ですが、上皇后様の対応はどうすれば…?
今や後宮は火が消えたように静まり返っています。第一の側室が香の国へと嫁ぎ、貴方は変わらず後宮に寄りつかない。その上正妃となるべく婚約の儀までした香蘭殿は暗殺されたと噂が流れている現状です。そんな状態にあの方は黙ってはいないでしょう。
それに香蘭殿の暗殺説が流れて以来、貴族や他国の姫から我が娘を正妃へという手紙が、毎日山のように届いています。もう、私の手では押さえきれません。」

「分かった…。上皇后は俺がなんとかする。」

既に証拠は固めてある。あの人の裏取り引きや悪事の数々、それになにより上皇以外の男と通じている事だけで立派な裏切り行為だ。流刑に値するだろう。

だが…残念ながら上皇后は香の国から嫁いで来た。未だ繋がりは深く、今下手なことをしたらこちらの戦略も漏れ伝わる恐れがある。

「遂に…?」
李生はやたら嬉しそうに目を輝かせているが…

「いや、今は無理だ。上皇后は香の国との結び付きが強い。下手に動けば勘付かれてしまう。」

「…確かに…。」
分かりやすく李生ががっくりと肩を落とす。

俺だって、出来ればサッサと彼女を後宮から追い出したい。婚約の儀の時に香蘭を泣かせた恨みを決して忘れはしない。

「今夜こちらから伺うと伝えてくれ。」
言葉少なにそう告げて、何とかやり過ごす。