「ありがとう香蘭。温泉のおかげで、きっと明日には良くなって来る筈だ。」
健気な彼女の想いに寄り添いたくて、晴明は香蘭を宥めるように頭を撫ぜる。
それでもしばらく恥ずかしくて、居た堪れない気持ちで俯いていた香蘭に、
「顔を上げてごらん。」
と、晴明が優しく話しかけ、空を指先すからつられて何となく香蘭も目を空に向ける。
そこには満天の星空が光り輝いていて、
「…うわぁー。」
と、香蘭も思わず感嘆の声を上げる。
「本当に綺麗だ…。」
今度ばかりは晴明も、一緒に星空を見上げて微笑む。
しばらくそうしていると、香蘭の緊張が解れていき、いつしか晴明の逞しい胸板に寄りかかり、うっとりと夜空を見上げていた。
「香蘭、少し具体的な話をしようか。」
晴明がふと話しかけてくる。
「…どんなお話しですか?」
何の事かピンとこない香蘭は首を傾げて晴明を見る。
「そうだな。例えば…子は何人欲しい?とか、この先どう生活したい?とか…
結婚後の事を具体的に話し合ってなかったなと思って。こんな機会はなかなかないから、今のうちに香蘭の率直な意見を聞いておきたい。」
彼女との強固なる結び付きが早く欲しくて、結婚を急いていたが、彼女の気持ちを置き去りにしていた事に今さらながら気付く。
「子供…ですか?」
香蘭とて、未だ夢の中にいるようで現実味がないから、未来の2人の事を考えた事もなかった。少し驚き言葉が出ないでいる。
「俺は考えた事がある…。
子は多ければ多い程幸せだが、香蘭の身体も心配だから3人くらいが良いな。男だったら自然の中で育ててやりたい。女ならば…可愛くて嫁にはやれんな。」
未来に想いを馳せて晴明が語る。ただの男に戻って幸せな未来を夢に描く。
「私が母に…?想像した事も無いのですが…でも、もしも私に子ができなかったら…。」
香蘭は逆に、消極的な事ばかりが頭に浮かんでくる。
「子が無さなくても、2人で仲睦まじく老いるまで一緒にいられたら俺は本望だ。」
そう言って微笑む晴明を、本気ですか⁈と香蘭は驚き顔で見つめる。
「そういう訳にはいきません…
世継ぎがいなければ国が絶えてしまいます。…どうかその時は迷わず側室を…。」
「嫌だ。香蘭以外の女子(おなご)なんて考えられない。」
被せ気味に言ってくる晴明に二度驚く。
「俺はみなが思うより心が狭く、頭の中は香蘭で一杯だ。そなただけを一生愛して生きていきたい。」
駄々っ子のようにそう言って、後ろから抱きしめられた手が力を増す。
「でも…もし、私が先に死んだら…せめて後妻を…。」
「なぜ、そんな悲しい事ばかり言うのだ。香蘭は死なないし、死なせない。病だろうと必ず助ける。それでも、そなたがもし死ぬ時が来るのなら、俺も一緒に生き絶える。」
「それは駄目です!」
「ならば生きろ。何があっても生き続けてくれれば良い。」
今まで何度も失いそうになった彼女の命なのだから、晴明にとっては切実な思いだ。
ぐるりと身体の向きを変えられて向かい合う形となる。
晴明が泣いてしまうのでは無いかと思うぐらいの悲しい顔を見せてくるから、
「…ごめんなさい。」
と、香蘭は思わず晴明に抱きついて許しを乞う。
「私が不甲斐ないから…自分に自信が持てなくて、負の感情ばかりで…。」
「いや…違う…。
俺が事を急かせたせいで、そなたの心を置き去りにしてしまっていたのだ。不甲斐ないのは俺の方だ。
良く考えて見極める時間を与えるべきだった。すまない…結婚の儀は白紙に戻そう。
俺と共に歩むか否か…そなたが決めるべきだ。」
「私は…!」
香蘭が急いで肯定の言葉を並べようと話し出すのだが、人差し指を唇に当てられ阻止される。
「今はまだ返事は要らない。
俺がただ浮かれていたのだ。全て好機と捉えて勝手に1人突っ走っていた。そなたの気持ちもちゃんと聞かずに…。」
健気な彼女の想いに寄り添いたくて、晴明は香蘭を宥めるように頭を撫ぜる。
それでもしばらく恥ずかしくて、居た堪れない気持ちで俯いていた香蘭に、
「顔を上げてごらん。」
と、晴明が優しく話しかけ、空を指先すからつられて何となく香蘭も目を空に向ける。
そこには満天の星空が光り輝いていて、
「…うわぁー。」
と、香蘭も思わず感嘆の声を上げる。
「本当に綺麗だ…。」
今度ばかりは晴明も、一緒に星空を見上げて微笑む。
しばらくそうしていると、香蘭の緊張が解れていき、いつしか晴明の逞しい胸板に寄りかかり、うっとりと夜空を見上げていた。
「香蘭、少し具体的な話をしようか。」
晴明がふと話しかけてくる。
「…どんなお話しですか?」
何の事かピンとこない香蘭は首を傾げて晴明を見る。
「そうだな。例えば…子は何人欲しい?とか、この先どう生活したい?とか…
結婚後の事を具体的に話し合ってなかったなと思って。こんな機会はなかなかないから、今のうちに香蘭の率直な意見を聞いておきたい。」
彼女との強固なる結び付きが早く欲しくて、結婚を急いていたが、彼女の気持ちを置き去りにしていた事に今さらながら気付く。
「子供…ですか?」
香蘭とて、未だ夢の中にいるようで現実味がないから、未来の2人の事を考えた事もなかった。少し驚き言葉が出ないでいる。
「俺は考えた事がある…。
子は多ければ多い程幸せだが、香蘭の身体も心配だから3人くらいが良いな。男だったら自然の中で育ててやりたい。女ならば…可愛くて嫁にはやれんな。」
未来に想いを馳せて晴明が語る。ただの男に戻って幸せな未来を夢に描く。
「私が母に…?想像した事も無いのですが…でも、もしも私に子ができなかったら…。」
香蘭は逆に、消極的な事ばかりが頭に浮かんでくる。
「子が無さなくても、2人で仲睦まじく老いるまで一緒にいられたら俺は本望だ。」
そう言って微笑む晴明を、本気ですか⁈と香蘭は驚き顔で見つめる。
「そういう訳にはいきません…
世継ぎがいなければ国が絶えてしまいます。…どうかその時は迷わず側室を…。」
「嫌だ。香蘭以外の女子(おなご)なんて考えられない。」
被せ気味に言ってくる晴明に二度驚く。
「俺はみなが思うより心が狭く、頭の中は香蘭で一杯だ。そなただけを一生愛して生きていきたい。」
駄々っ子のようにそう言って、後ろから抱きしめられた手が力を増す。
「でも…もし、私が先に死んだら…せめて後妻を…。」
「なぜ、そんな悲しい事ばかり言うのだ。香蘭は死なないし、死なせない。病だろうと必ず助ける。それでも、そなたがもし死ぬ時が来るのなら、俺も一緒に生き絶える。」
「それは駄目です!」
「ならば生きろ。何があっても生き続けてくれれば良い。」
今まで何度も失いそうになった彼女の命なのだから、晴明にとっては切実な思いだ。
ぐるりと身体の向きを変えられて向かい合う形となる。
晴明が泣いてしまうのでは無いかと思うぐらいの悲しい顔を見せてくるから、
「…ごめんなさい。」
と、香蘭は思わず晴明に抱きついて許しを乞う。
「私が不甲斐ないから…自分に自信が持てなくて、負の感情ばかりで…。」
「いや…違う…。
俺が事を急かせたせいで、そなたの心を置き去りにしてしまっていたのだ。不甲斐ないのは俺の方だ。
良く考えて見極める時間を与えるべきだった。すまない…結婚の儀は白紙に戻そう。
俺と共に歩むか否か…そなたが決めるべきだ。」
「私は…!」
香蘭が急いで肯定の言葉を並べようと話し出すのだが、人差し指を唇に当てられ阻止される。
「今はまだ返事は要らない。
俺がただ浮かれていたのだ。全て好機と捉えて勝手に1人突っ走っていた。そなたの気持ちもちゃんと聞かずに…。」



