一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

そんな風に夢のような半日を過ごし、午後はお屋敷の中を寧々ちゃんと女中頭と共に散策する。

「このお屋敷は別邸のような場所なので、最近はあまり使っていなかったのです。やはり少しくたびれた感じがしますよね。」

元々思っている事を隠さず話す寧々ちゃんだから、女中頭が近くにいようがお構いなしに話してくる。

「これはこれで風情があって私は好きよ。」
場を取り繕うように私が言うと、

「でも、夜中に廊下を歩くと幽霊が出そうで怖いんですよ。部屋数も無駄に多くて寒いですし。」
それでも寧々ちゃんの愚痴は止まらない。

「寧々さん、お言葉ですが、夜な夜な邸内を徘徊するのは淑女としてどうでしょうか?もう少しお淑やかに過ごすべきです。」
黙っていられなくなったのか、女中頭が目を吊り上げて反撃する。

「小煩い方がいるから逃げたくなるのです。」
寧々ちゃんがそんな風に反抗するから、ケンカが始まってしまうのではないかと、私はオロオロしてしまう。

「寧々さんの反抗的な態度に鈴蘭様がびっくりしておられますよ。ちゃんと私の事を紹介してくださいな。」
女中頭がそう言って寧々ちゃんに目配せする。

「仕方ないなぁ…。
こちら、女中頭の油淋(ユウリン)さんです。ちなみに私の母親です…。」
ブスッとした態度で寧々ちゃんが教えくれる。

「お母様…!?
それは…知らずに申し訳ありません。寧々さんにはいつもよくして頂いて、とてもお世話になっております。」

まさか寧々ちゃんのお母様だとは知らなかったから、びっくりしたと同時に、先程からの寧々ちゃんの態度には納得した。

「いえいえこちらこそ、とんだじゃじゃ馬で申し訳ありません。
実はこの屋敷、私共一族が代々管理を任されておりまして、寧々も一座に行くまでこちらで育ったんですよ。ここだけの話し、我らは若様に仕える隠密集団なのです。」

本当に、若様…晴明様とはいったい何者なのだろう…。

普段はあまり過ごさない別邸に使用人を雇い、隠密までもいる…ただ者ではない。晴明様については謎が深まるばかりだけど、聞く勇気もないまま今に至る。

「あの…今更なんですが…晴明様って、何者なのですか?」

私が思い切って2人にそう聞くと、なぜか言葉を濁し2人顔を見合わす。

「それについては、若様本人に直接問いただしてみるべきかと、私共は李生様から口止めされているのです。」

それほどまでに隠される理由とは…?
ますます知るのが怖くなってしまった。