一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

知らず知らずのうちに夜も更けて、良い頃合いになった頃、宇徳の計らいで今夜は泊まる事となる。

「裏山に秘境の温泉が湧き出る場所がある。酒も冷めたなら露天風呂を楽しんだらどうだ?毒にさらされた傷も癒えるだろう。」

晴明の右の二の腕付近を見つめ宇徳がそう言って家くる。

「さすが師匠、なんだってお見通しですね。実は毒のせいで治りが悪く、未だに出血する事があるのです。」
晴明はサラリと答える。
とうに傷は治ったと思っていた香蘭は、目を見開いて驚く。

「散歩がてら2人で行って来ると良い。ここら辺には動物か虫ぐらいしかいないから。」
そう言う宇徳の勧めもあり、酒で酔い潰れてしまった秀英を置いて、散歩がてら出かける事にする。

香蘭と晴明は行燈一つ持って、夜道を2人歩いて行く。流石に2人だけではと心配する李生と寧々が後にと続く。もちろん影ながら虎鉄も見守っている。

「今宵は月がとても綺麗だ。」
晴明は香蘭の手を取り小道を進む。
草の葉が風に揺れる音やリンリンと虫達の鳴き声も聞こえる。

「本当に。夜風もとても気持ちが良いです。」
満月を見上げながら、香蘭も微笑みを浮かべとても楽しそうだ。

「すまぬな。ここしばらく外出も出来ず、退屈な日々であったであろう。」

「いえ、大丈夫です。お陰でお勉強が捗りましたし、本も読めるようになったのですよ。」

「そうか、それは良かった。本は良い。それを読むだけで世界が無限に広がるぞ。」

「はい。とても面白く先が気になって仕方がありません。」
フワッと微笑む香蘭の頬をそっと触れて晴明は、

「それはいささか焼けるな。俺と居る時は、俺の事だけ思って欲しいものだ。さもないと書物にだとてやきもちを焼くぞ。」
からかっているのか、酔いがまださせていないのか、晴明がそう言ってくる。

「晴明様から推薦して頂いた本ですよ?」
と、おかしそうに香蘭が微笑む。

「言ったであろう。俺は香蘭の事となると、ありとあらゆるものに嫉妬できるのだ。」
晴明は、屈託なく笑う。

香蘭は揶揄われているようで、恥ずかしくなって晴明の背に隠れながら歩く。

「あっ。見えてきたぞ。あそこに湯気が立っている。」
小さな東屋の屋根が見えて来た。