一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

知りたい事は知り得た。
主犯格は誰か。何故、香蘭殿が命を狙われたのか。
それだけを確認したら深入りせずに戻って来いとの命令だ。

しかし不思議なものだ。
香の国の姫であったかも知れない香蘭殿と万世国の若き皇帝晴明が、知らずして出会っていたのだ。
虎鉄はこれは運命なのだと確信する。

待てよ?と、言う事は…虎鉄の頭に一つの仮説が浮かび上がる。
皇帝の命に背く気はないが、土産話しになり得る情報を手に入れようと、真夜中の香の国を走り回る。

明朝3時、約束の時間に江洋は自身の両親と兄弟、婚約者ミンミンの家族を引き連れ船着場に到着する。

木陰に隠れて虎鉄を待つ。少し時間が過ぎ不安が押し寄せ始めた頃、

「申し訳ない、少し遅くなってしまった。」
と、漁船に乗って虎鉄が現れた。

「この船に乗り聖国へ行き、その後1カ月程滞在して亡命申請を、その後万世国に。」
今後の流れを手短かに話し皆を船に乗せ、夜も明けきらない暗闇をゆっくりと漁船は船出した。

無事朝方に聖国に到着した一行は、借りの住まいに移動してホッと息を吐く。

「あの、密偵として命を狙った敵国の人間にも関わらず、俺の事を助けて頂きありがとうございます。これからは皇帝陛下の為にいつでも動く所存ですので、どうかお伝え下さい。」
別れ際、洋は今での全てを詫びるように虎鉄に跪き頭を下げる。

「いや、助けたのは皇帝陛下で私では無いので。また、陛下に会う機会がある筈だから直接伝えて頂きたい。」

「あの…一つ教えて頂きたい事が…。」
洋が話にくそうに言ってくる。

「なんですか?」
虎鉄は軽く話しを聞き返す。

「俺が放った弓矢ですが…もしかして…陛下に掠りましたか?」

「ああ、掠ったな。だが、もしあの矢が香蘭殿に当たっていたら、そなたの命は無かったかもしれない。陛下にとって彼女はそれほどまでに大事なお方なのだ。その事を肝に銘じておくように。」

洋は今になって自分の罪の深さを実感し体が震てくる。

「御意に。自分の犯した罪を深く反省し、陛下の懐の深さに感謝します。」
洋は片膝を立て香の国流の臣下の礼をとる。

「一時も早く我が国の礼儀を学び、国民の1人として陛下に報いてくれる事が、そなたの罪滅ぼしにもなるだろう。今後の活躍を期待する。」
虎鉄はそれだけ言って、サッと風の如く消えてしまった。


虎鉄は1人、万世国へと先を急ぐ。

聖国からは汽車に乗り、万世国の都まで早馬で4時間半の旅路だ。一刻も早く陛下に伝えなければならない大事な情報を手に入れた。これからの世界情勢にも関わる程の内容だ。

陛下は果たしてどうするか…。

この大事な時期に問題は山詰みだ。それでも一つずつ潰して先に進むしか無い。どうかこの難問を上手く乗り切り幸せになって欲しいと、虎鉄は祈るしか無かった。