一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

束の間の2人だけの朝食を終え、晴明様は仕事場へとお出かけになる。

家中の女中達と一緒に玄関に立ち並び、お見送りしようと彼を待つ。

私はどういう立場でここに居ればよいのだろう…。
自分はただの厄介者で、彼にとってお荷物でしかないのだから肩身が狭い…。

それに、家事もろくに出来ない私は、何の役に立つのだろうか…。匿ってくれている間だけでも、これまでの感謝を込めて何かしたいと強く思うのだけれど…

この広いお屋敷には、どうやら晴明様以外住んでいないようだし、その割には使用人が10人以上いるように思える。

私は、玄関を見渡して居場所の無さにシュンとなる。
そこに、
「鈴蘭殿、このような寒い場所にそなたは出て来なくてよい。足の具合が悪化してしまうではないか。早く部屋に戻って温まるべきだ。」

いつの間にか玄関口に来ていた晴明様が、私を見つけて慌てて靴を履いて、鴨居を跨いで近付いて来てくれる。

「ですが…このお屋敷に置いて頂く間だけでも、私も何かお役に立ちたいのです。使用人同様お仕事をお与え下さい。」

彼の顔を見上げ懇願する。

役人の衣装なのだろうか…。
晴明様は絹の光沢が光る高そうな黒の漢服を身に纏い、黒の日差し帽子を被っているから、普段より倍神々しく、近寄り難い雰囲気を醸し出していた。

つい見惚れそうになるところ気持ちを抑えて、女中と同じように頭を下げ礼をとる。

「そなたは…私の女中ではない。頼むからそのように頭を下げてくれるな。」

晴明様は困った顔をして寧々ちゃんに何やら耳打ちをする。

「では、寧々にいろいろ伝えてあるから今日はひとまず楽しく過ごしてくれ。」
そう言って、晴明様は私の頭をポンポンと撫ぜてにこりと笑顔を残し、馬車に乗り込み出かけて行った。

私はというと、触れられた事に衝撃を覚え、頭を下げて見送る事も忘れて呆然と固まってしまう。

「姐様、今日はお忙しくてなりますよ。
とりあえずお部屋に戻って傷の手当を。後は私にお任せ下さい。」
寧々ちゃんはなぜだか嬉しそうに声を弾ませながら、私の手を引き屋敷へと踵を返す。