「そなたが私の大切な者を付け狙う追手か。」
よく通る低い声が牢屋に響き渡る。
男はピクリともせず、ただ皇帝晴明を睨み付けている。
「この3日、飲まず食わずに寝る事も許されず、よく耐え抜いた。敵ながら誉めてつかわす。」
そう言葉を発する皇帝晴明の神々しさと、強い意志を見せつけられ男は一瞬目を泳がす。
それを晴明は見逃す訳がない。
「そなたは何故そこまで主人に従うのか。命をかけてまでの忠誠心とは何か。私なりに考えてみた。
しかしどう考えてもその主人はただの阿呆だ。それに従うそなたもな。」
主人を貶され落とされ、自分の忠誠心までも馬鹿にされ、流石に男は唇を噛み気持ちを露わにする。
「私なら大切な家臣に決して死ねとは命じない。最後まで生きろと命じるだろう。
たとえ重要な情報を聞き出されたとしてもだ。
何故なら、そなたの命はそなた自身のものだからだ。」
側で聞いている虎鉄達家臣は感動で胸が熱くなっているのに…この追手の心に突き刺さる事は無いのだろうか…。
しばらく身動き一つしない追手を誰しもが落胆して見つめていた。
「そうか。誰が大事な者を人質に取られたか?そなたの大事な父や母、それとも可愛い妹や…婚約者か。」
探るように話す晴明の言葉に、初めて男が小さく揺れる。
その少しの変化に晴明は気付く。
「なるほど。そなたが裏切れば人質に命が無いと脅されたんだな。
私が手を貸そう。どうだ、わたしにかけて見ないか?」
推理戦、言葉の駆け引き、全てが晴明の得意とする戦略だ。相手の揺れ動く心を見逃さず、そこにつけ込み突けば相手は必ず綻びを見せる。
少しの間の後、
男が突然、肩を振るわせ地面に顔を伏せる。
「そなたの主人(あるじ)から、大事な者を助け出す手助けをしよう。どうだ?これはそなたと私の取引だ。
そなたは余の言う通りに動けば良いだけだ。そうすれば、婚約者とそなたの命。救い出してやろう。
余はこの国の皇帝であり、余の言葉に断じて嘘偽りはない。」
男はそこで信じられない者を見るように顔を上げる。
「皇帝…陛下…?」
確かにこの男が入って来た途端、兵士達の空気がピリッとしたのは感じていた。只者では無いという空気感に、この国の偉い人なのかと思ってはいたが…
それにしても若いなと若干の違和感を感じつつ、敵に囲まれ捕虜となった絶対絶命なこの状況、自死する事も許されず、三日三晩何も口に出来ず寝る事さえ許されず、心身共に心が折れそうになっていた。
そんな極限な状況で、それでも最後までもがき口を割らなかったのは、他でも無い愛する婚約者の身を慮ったからだった。
男はただの傭兵に過ぎなかった。
刺客に選ばれたのは他者よりも弓の扱いに若干長けていただけだ。
そしてこの春には婚約者と結婚式を挙げる予定だったのだ。
主人は言った。『お前が事を成し遂げ帰国したら、その暁には盛大に結婚式を執り行い、新居を用意しよう。』
その言葉を疑う事なく鵜呑みした自分がいけなかっのだ。
気付いた時には大事な婚約者は人質に取られ、既に引けない状態だった。
命じられたのは、旅芸人一座のある踊り子の命を奪う事ただ一つ。その理由さえも知らないまま、この敵国に侵入した。
そして1週間、その機会を伺いながら彼女に張り付き尾行した。この美しい少女に何の罪があるのかなんて知った事ではない。ただ、命令に従い事を成さなければ、大事な婚約者との幸せな人生は望めないのだ。
簡単な仕事だと思っていた。弓の腕には自信がある。
それなのに、自分はいつからこの敵国の皇帝を敵に回していたのだろうか…。
よく通る低い声が牢屋に響き渡る。
男はピクリともせず、ただ皇帝晴明を睨み付けている。
「この3日、飲まず食わずに寝る事も許されず、よく耐え抜いた。敵ながら誉めてつかわす。」
そう言葉を発する皇帝晴明の神々しさと、強い意志を見せつけられ男は一瞬目を泳がす。
それを晴明は見逃す訳がない。
「そなたは何故そこまで主人に従うのか。命をかけてまでの忠誠心とは何か。私なりに考えてみた。
しかしどう考えてもその主人はただの阿呆だ。それに従うそなたもな。」
主人を貶され落とされ、自分の忠誠心までも馬鹿にされ、流石に男は唇を噛み気持ちを露わにする。
「私なら大切な家臣に決して死ねとは命じない。最後まで生きろと命じるだろう。
たとえ重要な情報を聞き出されたとしてもだ。
何故なら、そなたの命はそなた自身のものだからだ。」
側で聞いている虎鉄達家臣は感動で胸が熱くなっているのに…この追手の心に突き刺さる事は無いのだろうか…。
しばらく身動き一つしない追手を誰しもが落胆して見つめていた。
「そうか。誰が大事な者を人質に取られたか?そなたの大事な父や母、それとも可愛い妹や…婚約者か。」
探るように話す晴明の言葉に、初めて男が小さく揺れる。
その少しの変化に晴明は気付く。
「なるほど。そなたが裏切れば人質に命が無いと脅されたんだな。
私が手を貸そう。どうだ、わたしにかけて見ないか?」
推理戦、言葉の駆け引き、全てが晴明の得意とする戦略だ。相手の揺れ動く心を見逃さず、そこにつけ込み突けば相手は必ず綻びを見せる。
少しの間の後、
男が突然、肩を振るわせ地面に顔を伏せる。
「そなたの主人(あるじ)から、大事な者を助け出す手助けをしよう。どうだ?これはそなたと私の取引だ。
そなたは余の言う通りに動けば良いだけだ。そうすれば、婚約者とそなたの命。救い出してやろう。
余はこの国の皇帝であり、余の言葉に断じて嘘偽りはない。」
男はそこで信じられない者を見るように顔を上げる。
「皇帝…陛下…?」
確かにこの男が入って来た途端、兵士達の空気がピリッとしたのは感じていた。只者では無いという空気感に、この国の偉い人なのかと思ってはいたが…
それにしても若いなと若干の違和感を感じつつ、敵に囲まれ捕虜となった絶対絶命なこの状況、自死する事も許されず、三日三晩何も口に出来ず寝る事さえ許されず、心身共に心が折れそうになっていた。
そんな極限な状況で、それでも最後までもがき口を割らなかったのは、他でも無い愛する婚約者の身を慮ったからだった。
男はただの傭兵に過ぎなかった。
刺客に選ばれたのは他者よりも弓の扱いに若干長けていただけだ。
そしてこの春には婚約者と結婚式を挙げる予定だったのだ。
主人は言った。『お前が事を成し遂げ帰国したら、その暁には盛大に結婚式を執り行い、新居を用意しよう。』
その言葉を疑う事なく鵜呑みした自分がいけなかっのだ。
気付いた時には大事な婚約者は人質に取られ、既に引けない状態だった。
命じられたのは、旅芸人一座のある踊り子の命を奪う事ただ一つ。その理由さえも知らないまま、この敵国に侵入した。
そして1週間、その機会を伺いながら彼女に張り付き尾行した。この美しい少女に何の罪があるのかなんて知った事ではない。ただ、命令に従い事を成さなければ、大事な婚約者との幸せな人生は望めないのだ。
簡単な仕事だと思っていた。弓の腕には自信がある。
それなのに、自分はいつからこの敵国の皇帝を敵に回していたのだろうか…。



