一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

香蘭は子守唄を唄い終え、深く一礼して舞台端へと今にも溢れ出しそうな涙を堪えて…歩き出す。

込み上げてくる気持ちを落ち着ける為に、楽屋に入ろうとしたそのタイミングで、フワッと身体を宙に浮く感覚を覚えて、反射的にぎゅっと目を瞑る。

「香蘭頑張ったな、お疲れ様。
会場がパニックになる前にこのまま早く外に出よう。」
暖かな優しい声を聞きそっと目を開ける。

「晴明様…。」
見上げた先には晴明の優しい笑顔…
ホッとするのと同時に、これまで我慢していた涙がツーッと一筋ほおを濡らす。

「大丈夫か?余韻に浸る時間も無くて申し訳ないが、出口に観衆が集まる前に抜け出さなければならない。」
晴明はあの群衆に囲まれては守りきれない不安と恐怖に襲われていた。珍しく焦りの色を顔に出し、香蘭を抱いたまま足速に歩き出す。
その隣には鉄虎と数人の護衛が2人を取り囲み守る。

晴明の機転で誰にも気付かれず素早くその場を離れる事が出来た。

馬車の中、香蘭は晴明の膝の上に横抱きのままの姿勢で抱きしめられたままでいた。
それというのも、感情のバロメーターが振り切ってしまった香蘭の目から、止めど無く涙が流れ出て晴明を必要以上に心配させたからだ。

ヒックヒックとしゃくり上げ、身体を小刻みに揺らしている香蘭の背中を優しく撫ぜながら、何とかその涙をせき止めたいと晴明は心を痛める。

「そなたの事を大衆から奪うようで俺も心が痛い。それほどまでに鈴蘭は愛された踊り子だったのだと、今宵痛感した。」
静かに話し出す晴明の声が、香蘭の耳に優しく聞こえる。

「…私も…これほどまでに、愛されていたとは…知らず…今まで…」
途切れ途切れに話し出す香蘭の声が、2人きりの馬車の中に響く。

堰を切ったように溢れ出る涙はもはや自分でも止める事が出来ない。
ただ、晴明の広い胸にしがみついて嗚咽を漏らす。

こんなにも感情的に泣く香蘭は知らないと、晴明は庇護欲を掻き立てられる。

「舞台を続けさせてあげられなくて申し訳ない。悲しいなら思い切り泣いてくれ。」
全てを受け止めようと、舞台を降りる事を決めたのは香蘭自身なのに誤ってくるその優しさに余計に涙が溢れてしまう。

「…晴明様の、せいでは…決して、ありません…私が辛いのは…涙が、出るのは…今まで、こんなにも多くの人に応援されていたのに…気付けなかった、自分の不甲斐なさに…悔しくて、今更、知ったとこで…悲しくて…。」
途切れ途切れに話し出す香蘭の思いの丈を受け止め、晴明はただうんうんと小首を振るしかなかった。

「俺としてはこれほどまでもライバルがいる事に恐れをなしている。彼らに認められるよう、そなたの事をこれまで以上に大事にしなければならないと、新たな思いを胸に誓う。」
晴明は揺るがない意志と強さを垣間見せて、香蘭を安心させてくれる。

宿に着く頃には香蘭の気持ちも落ち着いて、泣き疲れたのかゆらゆらと身体が揺れて、いつしか知らぬ間に意識を手放していた。