一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

「今宵はのんびりこの部屋で過ごそう。」
晴明が両開きのドアをバッと開けると、窓から明るい光が差し込む部屋が目に飛び込んでくる。

香蘭は眩しくて目を細めて部屋にと恐る恐る足を運ぶ。

「…なんて、豪華な…。」
言葉を失うとはこういう事だろう。

部屋は黒の漆喰塗りで至る所に金の装飾品が煌びやかに輝いている。広い窓からは爽やかな春の風と共に、花の良い香りが漂ってくる。

大きな丸いテーブルも漆喰の黒でピカピカ輝き、その中央には大きな花瓶が置かれ、白い花が花畑の如く飾らせていた。

「綺麗…なんて良い香りなんでしょう。」

香蘭は驚きと感動で、目をキラキラと輝かせながら晴明を見上げる。

「気にいったようで良かった。」
その笑顔を見て晴明も嬉しそうに笑う。

しばらく香蘭は部屋中を物珍しそうにうろうろと見て回る。そしてしばらくして窓の外へと目を向け足を止めた。

晴明は長椅子に座り寛ぎながら、そんな香蘭の姿を可愛いなと目で追っていたが、ふいに立ち止まった香蘭の後ろ姿が気になり、そっと近付き肩を抱く。

「どうした?」
何かあったのかと不思議そうに香蘭を覗き込む。

「晴明様。私、決めました。」
その目は真っ直ぐと晴明を見つめ、揺るがない決心が見える。

「私…今夜の舞台で最後にしたいと思います。」

「最後?」

「これまで変な意地を張って、わがままを言ってごめんなさい。」
そう言って深く頭を下げる。

「本当に、良いのか!?
後になって後悔する事があってはならない。」
今年で最後。
今まで香蘭が努力し頑張り続けた事の集大成の一年だと、晴明にだって良く分かっていた。気持ち半ばで断念する事に申し訳なささえ感じてしまう。

「これ以上舞台に立つ事は沢山の人にご迷惑がかかると思います。特に晴明様が…私のせいで、お怪我をしたり無理をなさるのは辛いのです。」
今にも泣き出しそうな顔で香蘭が言うから、晴明も動揺し慎重に言葉を並べる。

「俺がそうしたくて勝手にやってる事だ。
刺客の事もそなたには何の落ち度も無い。気にせずやりたい事をやり抜くべきだ。」
そう慰めるように言うのだが香蘭は首を横に降り、

「もう充分です。
これまで耐え忍んできた毎日が、この1か月で良い思い出に変わりました。これも全て晴明様のお陰です。ありがとうございました。」

「…心残りは本当にないのか?
そなたがそう望むのならば止める事は出来ないが…今夜で見納め、という事か…いちファンとしては少々寂しいな。」
祭りの事といい、全てを諦めさせるのは晴明にとっても心が痛い。
フーッと一息深く吐く晴明もひとしおの思いがある。

「これからも晴明様が望んでくれるのならば、いつでもどこでも唄いますから。」
そう言う香蘭の強い意志を感じ取り、

「そうか…それは特権だな。」
そう言って晴明は香蘭を優しく抱きしめ、しばしそのまま髪を優しく撫ぜていた。