一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

夕飯も食べられず、舞台はギリギリでなんとか完成する。
何も知らない観客達はまだかまだかと待ち詫びる。

始まりは春蘭の踊りで始まり、最後に香蘭の歌で幕を閉じる。今宵も大反響であっという間の2時間を駆け抜ける。

息を切らせて戻って来た踊り子達は、用意されたお茶を飲み、やっとホッとした時間がやって来る。

「こんな小さな肉まんじゃ、何のお腹の足しにもならないわ。」
春蘭がぼやく横で香蘭は、その肉まんを懐に大事そうに抱え晴明を探す。

「寧々ちゃん晴明様はどこ?」
香蘭から片時も離れるなという命を受けている寧々もまた、香蘭の跡を追って着いて来る。

「多分、先程舞台袖にいましたから、舞台の撤収作業でも手伝っているのかもしれません。本当物好きなんだから…護衛しているこっちの身にもなって欲しいものです。」
いつもそうなのだと言わんばかりに寧々が愚痴を言う。

「護衛に扮しているだけで良いものを…結局、自ら目立ってしまうのです。こっちの身が持ちません。」
寧々の愚痴は止まらない。

「みんな大変ですね…じっとしててくださいとは、私の口からはとても言えませんけど…。」
香蘭も苦笑いして舞台へと急足で先を急ぐ。

彼はきっといつだって本当は自由でいたいのだ。
それが彼の本来の姿であり、魅力でもあるから愚痴を言いながらもみんな彼を慕っている。

そして、香蘭にも自由に生きろと示してくれる。心優しい人だから、その全てを支えて微力ながら力になりたいと…思ってしまうのは私の独りよがりだろうか…

もう自分自身、離れられっこない事ぐらいとっくに分かっている。

そんな事を思いながら晴明の姿を探して光が落ちた舞台を歩く。

「香蘭、こんな所で何している?」
探していたはずの晴明に後ろから声をかけられて、思わず身体がビクッと揺れる。

「晴明様を探していたのです…。」
振り返ると思いのほか近くに来ていて驚く。

「既に舞台の撤収は終わった。後は踊り子達の身なりが整うのを待つばかりだ。何か俺に用なのか?」

「あの…肉まんをと思って持って来たのですが…。」
なぜかヨイショと担がれて舞台から下ろされるから、戸惑いながらもぎゅっと首元に抱きつく。

辺りを見渡せば、一緒にいたはずの寧々はいつの間にか居なくて…。キョロキョロと抱き上げらたまま周りを見渡す。

「心配しなくても寧々は先に戻らせた。それより、肉まんはどこにある?」

あっと思って懐に入れた2つの肉まんを取り出せば、抱き上げられた拍子に少し潰れてぺたんこになっていた。 

「香蘭の懐にはいつも何か入っているのだな。」
ハハっと笑って口をあーと開けるから、戸惑いながらも肉まんを口元に持って行くと、パクパクッと2口で食べてしまう。

「美味いな。だが、その小ささでは足りな過ぎる。早く宿に帰って夕飯にしよう。」
晴明は片手で香蘭を抱えながら、片手で残りの肉まんを手に取り今度は香蘭の口に運ぶ。

戸惑いながらも香蘭もパクッと小さく口を開けて、肉まんをひと口食べてみる。

「これは、晴明様にと持ってきたものです。2つ共食べて欲しかったんです。」

「それでは香蘭の物がないではないか。美味しいものは分け合って食べる方がより上手い。」
そう言われてしまうと仕方なく、晴明の手にある肉まんを頬張るしかない。

「餌付けしてる気分になるな。」
晴明は笑いながら香蘭を寧々が待つ馬車に乗せ、それから直ぐに馬車は走り出す。

この頃にはもう先程毒矢に掠った事も忘れるくらい普段通りの晴明に戻っていた。香蘭はホッと一つため息をつく。

馬車の中には春蘭も乗っていて、
「結局、あなた待ちだったのよ。」
と、笑われる。

それから今夜の宿に到着して、夕飯を晴明と共に食べ共に眠る。

初めこそ同じ床で眠るのはドキドキして無理だと思っていたけれど、その暖かな腕に抱かれて眠るのは、ゆりかごの中のように安心出来て、いつしか知らぬ間に熟睡してしまっていた。


私はなぜ命を狙われているのか…?
追手は誰なのか…?

未だ分からぬまま王都までの2日間は思いがけず楽しい旅路になった。