「しかし…よく寝たせいか腹が減って来たな。そろそろ今宵の街に着いても良い頃ではないか?」
晴明はそう言って、薄暗くなってきた車窓を覗く。
「ああ、寧々が馬に乗ってくれたのか。良かった鈴々は人を選ぶからな。それより…香蘭足は痺れていないか?ずっと枕替わりにしてしまって重かっただろう。」
「あっ…いえ大丈夫です。それよりも、毒はお身体から抜けたでしょうか?体調は大丈夫なのですか?」
暗くなって来た視界からは、晴明の顔色を読む事は難しい。
「俺はすこぶる気分は良いぞ。そなたの膝枕のおかげか、今までの疲れも吹っ飛ぶくらい気分が良い。」
ハハハと笑いのけ、晴明は大物振りを見せつける。
「ちょっと、何を楽しそうに笑っているんですか?こっちは心配でハラハラしていたのに…。」
窓の外からその楽しそうな笑い声を聞いて、寧々が不服そうな顔を向けてくる。
「ああ、ここにも煩い奴がいたな。俺はこれしきの事には負けん、大丈夫だ。」
毒矢が掠めたのに、大した事ないと笑って茶化してしまう。それが晴明という男で、その懐の深さは計り知れない。
「…ちょっと待って。寧々もこの人の回し者なの⁉︎ 一体いつから…?知らなかったのは私だけ⁉︎」
春蘭はハッとなって驚きを隠さない。
「大丈夫…私も知ったのはつい最近だから。」
香蘭はそう言って苦笑う。
「鈴蘭…あなた…変な大物に捕まったわね…。」
「変な、はいささか失礼ではないか?まぁ、良い。香蘭の周りは安泰だと知れて俺はホッとした。」
今までのやり取りのどこにホッとしたのかと、食ってかかりたい気持ちを抑え、春蘭はこの得体の知れない男をしばらく監察する事に徹する。



