「若様、鈴蘭姐様を連れて来ましたよ。」
寧々ちゃんが楽しそうな声で、窓際に座っている人物に声をかける。
部屋の中は窓から差し込まれる太陽光が眩しくて目が眩む。
「ああ、おはよう鈴蘭殿、よく眠られたか?
昨夜は疲れただろうし、もっとゆっくり寝てれば良いものを、足首の方は大丈夫か?」
若様の良く通る低く響く声を聞き、私は身を硬くして頭を下げたまま挨拶をする。
「お、おはようございます。…怪我の方はそこまでの痛みはないので大丈夫でございます。
あの…昨夜は…不覚にも眠ってしまい…大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。
それなのに、ご親切に怪我の手当までして頂き、このように綺麗な着物まで…本当にありがとうございます。」
私は床に膝を付き、召使いや下人がするような身分相当な挨拶をする。
それに慌てたのは若様で、ガタンと椅子から立ち上がりわざわざ近付いて来て、私の手を取り立ち上がらせてくれる。
「そなたは大事な客人だ。そのように畏まらなくても良い。足の怪我に響くといけない。あまり無理はしないでくれ。」
若様は優しくそう諭し、わざわざ支えるように隣を歩き椅子まで誘導してくれるから、私の心臓はドキンと高なって胸が苦しくなる。
「私は…しがない旅芸人の踊り子です。
あなた様にこれほどまでに良くして頂くような身分では無いのです。…どうか、下女のような扱いで…」
恐縮してそう伝えるのに言葉をさえぎられ、
「そなたは俺にとって大事な人だ。身分なんて気にしなくて良い。
そんな事より、鈴蘭殿はやはりどのような着物も良く似合う。もっと衣類を買わねばならないな。他に必要な物があれば遠慮せずに、俺か寧々に伝えてくれ。」
若様は目を細め嬉しそうな声でそう言って、私の気持ちを上げてくれる。
「勿体無いお言葉、ありがとうございます。もう、充分でございます。私なんかの為に…申し訳ないくらいです。」
椅子に座る前にいま一度深くお辞儀をする。
「鈴蘭殿…既に昨夜から礼の言葉は沢山受け取った。もう礼は必要ない。それよりも、腹が減っているだろう。寧々、早く朝食の用意を。」
そう言って、寧々ちゃんに合図する。
「かしこまりました。」と頭を下げるのを見て、本当に2人は侍従関係なんだと納得した。
寧々ちゃんはにこやかに臣下の礼をして部屋を出て行ってしまった。
「本当に…寧々ちゃんは、若様の隠密だったんですね…。」
寧々ちゃんの背中を見つめつい口に出してしまう。
「寧々に聞いたか…。
寧々の事は驚かせてしまっただろうが出来れば今まで通りでいてやって欲しい。
本当の姉が出来たかの様に、いつも嬉しそうにそなたの事を話してくれた。これからも鈴蘭殿の付き人として側に置いてやってくれ。」
「そんな…私になんて勿体無い事です。」
私には誰かに助けられ、守られるような価値なんてないのに…。
「それに、そなたから若様と呼ばれるのには少々抵抗がある。出来れば名前で呼んで欲しい。
とりあえず、朝食を食べてくれ。口に合えば良いのだが、マナーなんて気にせず好きに食べてくれて構わない。」
彩鮮やかな沢山の小皿が並べられ、うわぁと感嘆がでてしまいそうになる。
「…美味しそうです。」
気付けば昨日のお昼から何も食べていなかった。
目の前に並べられた見慣れない豪華な食事に戸惑ってしまう。それに、どれから食べるべきか迷ってしまうほど品数が多い。
それでも空腹には耐えきれず、頂きますと手を合わせて箸を付ける。
この黄色のふわふわは何だろう?
うわぁ…口の中でほろりと溶けて、なんて美味しいんだろう。初めて食べる味だけど、夢中になってもう一口と箸を運ぶ。
「口に合ったようで良かった。誰も取らないからゆっくり食べろ。」
あまりにもガツガツと食べていただろうか…若様は肩肘を付きフッと笑って、目を細めてこちらを見つめてくる。
「すいません…夢中になってしまって…。」
私が慌ててお箸を置いて姿勢を正すと、
「いや、可愛いなと思って見ていたんだ。気にせず食べろ。」
微笑みながらそう言ってくれる。
若様…晴明様は高貴な身分の方に違いないのに、私に分け隔てなく笑いかけ、話しかけてくれる。
寧々ちゃんにも気さくに話しかけ一緒になって笑っている。
寧々ちゃんが楽しそうな声で、窓際に座っている人物に声をかける。
部屋の中は窓から差し込まれる太陽光が眩しくて目が眩む。
「ああ、おはよう鈴蘭殿、よく眠られたか?
昨夜は疲れただろうし、もっとゆっくり寝てれば良いものを、足首の方は大丈夫か?」
若様の良く通る低く響く声を聞き、私は身を硬くして頭を下げたまま挨拶をする。
「お、おはようございます。…怪我の方はそこまでの痛みはないので大丈夫でございます。
あの…昨夜は…不覚にも眠ってしまい…大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。
それなのに、ご親切に怪我の手当までして頂き、このように綺麗な着物まで…本当にありがとうございます。」
私は床に膝を付き、召使いや下人がするような身分相当な挨拶をする。
それに慌てたのは若様で、ガタンと椅子から立ち上がりわざわざ近付いて来て、私の手を取り立ち上がらせてくれる。
「そなたは大事な客人だ。そのように畏まらなくても良い。足の怪我に響くといけない。あまり無理はしないでくれ。」
若様は優しくそう諭し、わざわざ支えるように隣を歩き椅子まで誘導してくれるから、私の心臓はドキンと高なって胸が苦しくなる。
「私は…しがない旅芸人の踊り子です。
あなた様にこれほどまでに良くして頂くような身分では無いのです。…どうか、下女のような扱いで…」
恐縮してそう伝えるのに言葉をさえぎられ、
「そなたは俺にとって大事な人だ。身分なんて気にしなくて良い。
そんな事より、鈴蘭殿はやはりどのような着物も良く似合う。もっと衣類を買わねばならないな。他に必要な物があれば遠慮せずに、俺か寧々に伝えてくれ。」
若様は目を細め嬉しそうな声でそう言って、私の気持ちを上げてくれる。
「勿体無いお言葉、ありがとうございます。もう、充分でございます。私なんかの為に…申し訳ないくらいです。」
椅子に座る前にいま一度深くお辞儀をする。
「鈴蘭殿…既に昨夜から礼の言葉は沢山受け取った。もう礼は必要ない。それよりも、腹が減っているだろう。寧々、早く朝食の用意を。」
そう言って、寧々ちゃんに合図する。
「かしこまりました。」と頭を下げるのを見て、本当に2人は侍従関係なんだと納得した。
寧々ちゃんはにこやかに臣下の礼をして部屋を出て行ってしまった。
「本当に…寧々ちゃんは、若様の隠密だったんですね…。」
寧々ちゃんの背中を見つめつい口に出してしまう。
「寧々に聞いたか…。
寧々の事は驚かせてしまっただろうが出来れば今まで通りでいてやって欲しい。
本当の姉が出来たかの様に、いつも嬉しそうにそなたの事を話してくれた。これからも鈴蘭殿の付き人として側に置いてやってくれ。」
「そんな…私になんて勿体無い事です。」
私には誰かに助けられ、守られるような価値なんてないのに…。
「それに、そなたから若様と呼ばれるのには少々抵抗がある。出来れば名前で呼んで欲しい。
とりあえず、朝食を食べてくれ。口に合えば良いのだが、マナーなんて気にせず好きに食べてくれて構わない。」
彩鮮やかな沢山の小皿が並べられ、うわぁと感嘆がでてしまいそうになる。
「…美味しそうです。」
気付けば昨日のお昼から何も食べていなかった。
目の前に並べられた見慣れない豪華な食事に戸惑ってしまう。それに、どれから食べるべきか迷ってしまうほど品数が多い。
それでも空腹には耐えきれず、頂きますと手を合わせて箸を付ける。
この黄色のふわふわは何だろう?
うわぁ…口の中でほろりと溶けて、なんて美味しいんだろう。初めて食べる味だけど、夢中になってもう一口と箸を運ぶ。
「口に合ったようで良かった。誰も取らないからゆっくり食べろ。」
あまりにもガツガツと食べていただろうか…若様は肩肘を付きフッと笑って、目を細めてこちらを見つめてくる。
「すいません…夢中になってしまって…。」
私が慌ててお箸を置いて姿勢を正すと、
「いや、可愛いなと思って見ていたんだ。気にせず食べろ。」
微笑みながらそう言ってくれる。
若様…晴明様は高貴な身分の方に違いないのに、私に分け隔てなく笑いかけ、話しかけてくれる。
寧々ちゃんにも気さくに話しかけ一緒になって笑っている。



