一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

木陰で休みながら少しの休息を取る。

出発前に買い込んだ肉まんをお茶と一緒に食べながら凝り固まった身体を伸ばす。

香蘭の側には護衛に扮した晴明が手の届く位置に立って見守っている。

それがとても居た堪れなくて、
「護衛の方も座って休んで下さい。」
と香蘭が声をかけるのだが、晴明はただ微笑むだけでその場から動こうとしない。

それでは護衛の方にもお茶を、と香蘭は立ち上がり1人ずつにお茶を配る。

それでも晴明から配るのは特別視してるようでいけないと、慎重に考えながら周隊長からお茶を渡す。

「お疲れ様です。
先程…副座長を説得してくださってありがとうございました。」

「いえ、馬にも休息が必要なので助かりました。休ませた方が早く走れますから。」
周隊長はにこやかに微笑みを浮かべる。

「そうなんですね。良かったです。」
馬達を見ると確かに疲れていたようで、水をゴクゴクと飲み雑草を食んでいる。

次に晴明の側に行きお茶を手渡すと、
「ありがとうございます。」
と、いち護衛になり切ったまま頭を下げて来るから、香蘭は困って『辞めてください』と、小声で訴え首を横に振る。

「…晴明様。せっかくの休暇で来られてるのにお仕事してるみたいです。…少しでも休んで下さい。」
過労のせいか少し痩せてしまった体を心配する。

「香蘭が視界にいてくれるだけで俺は十分癒されているから気にするな。」
そう言って香蘭だけを座らせてその横に立ち日陰まで作ってくれる。

どうしたら休んでもらえるんだろう…と香蘭は頭を悩ませる。

その時、
「香蘭!!」
叫ぶ声に香蘭は振り向きざまにドンッと押し飛ばされて、

「キャッ!?」
と、目をつぶる。
瞬時に次の衝撃に身構えて身体を硬くする。

…が、いつまで経っても衝撃がなくて…恐々目を開けると…気付けば力強い腕に抱かれ守られていた…。

晴明が咄嗟に下敷きとなり衝撃から守ってくれていたのだ。

抱きしめられながら地面に転がっている状態だったから慌てて起き上がり、
「せ、晴明様!?」

この時ばかりは周りを気にする事も忘れ名前を呼んでしまう。

「大丈夫だ…案ずるな。」
晴明も直ぐに身を起こし、香蘭の手を取り立たせてくれる。

「どこも怪我はないか⁉︎痛いところは?」
珍しく慌て気味に香蘭の頭から足の先まで探る。

「だ、だいじょう…で…す。」
事の状態を未だ飲み込めず、香蘭は震えながらそれでも気丈に返事をする。

「あ…晴明様…腕に傷が…大変…。」
よく見ると腕の辺りの着物がスパッと切れていて、そこから覗く頬が赤く染まっていた。

その傷を確認しようと震える手を伸ばすが、寸でのところで晴明にぎゅっと握られて止められる。

「この血に触れるな。毒かもしれん。」

ハッとなって目を見開く。
「ど、どういう…。」

戸惑い話しだそうとする香蘭を遮るように、ブワッと風が突然吹き、香蘭の髪がバサッと流され前が見えないくらいに乱れる。

「毒矢の毒は白緑草です、解毒剤を…。」
虎鉄がいつの間にか現れて、俊敏な動きで晴明に解毒剤が入った小瓶を渡す。それを躊躇なく晴明はグビッと飲み干す。

「敵は…?」
「1人はやりましたが、もう1人いたとは…申し訳ありません。」
小さく頭を下げる虎鉄を、

「大事ない。それより逃すな必ず捕まえろ。」

「はっ!」
また、ブワッと風が吹き香蘭は髪を乱したまま唖然としている。

2人が話していたのは一瞬の出来事で、きっと周りにいる全ての人が認識出来ないほどの速さだった筈だ。

金縛りにかかったかのように、目を瞬いて呆然としている香蘭の乱れた髪を晴明が手櫛で直す。

「大丈夫だ、案ずるな。一旦馬車に戻って落ち着くといい。」
晴明の優しい声でハッと金縛りが解ける。

「…追手が…?狙われたのは…私…⁉︎」

出来れば隠し通したかったが、もう限界だと晴明は観念したように、香蘭の手を取り馬車の中に誘導する。

周りにいる人間で、今の全てを認識出来たものはごくわずか…寧々や護衛達、後は近くにいた春蘭だけだった。