一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

「お待たせ致しました。」
香蘭が衝立の向こうから顔を出し、若干モジモジと恥ずかしそうな仕草を見せる。

「…すいません。お待たせし過ぎてしまいましたか?」
晴明が既に一杯やっているのを目にして、慌てたようにパタパタと駆け寄ってくる。

「そなたを待つ楽しみを味わっていた。気にするな。」
晴明はわざわざ立ち上がり、香蘭の手を取り長椅子に座らせる。

「先に水分を取っておいた方が良い。どれを飲む?」
そう言って、晴明は自ら飲み物を一つずつ丁寧に説明する。

「酒類は香蘭には毒だから辞めた方が良いが、果実の飲み物はどうだ?林檎に蜜柑に…これはコリンだな。どれがいい?」

机の上の沢山の飲み物を香蘭は少し迷い、コリンの果実が漬け込まれた飲み物を選ぶ。

それを晴明が自ら器に注ごうとするので、

「あっ、私が…。」
と、慌てて立ち上がり止めるのに、晴明はそれを可笑しそうに笑いながら、

「余が注ぐ飲み物は飲めないと申すのか?」
ワザと皇帝らしく言ってのけ、自ら器に注ぎ手渡してくれる。

「勿体無いお言葉…ありがたく頂戴致します。」
香蘭は両手で器を受け取り、腰を屈めてお礼を述べる。

「苦しゅう無い。近こう寄れ。」
晴明はそんな香蘭を抱き上げて、自分の膝の上に横抱きにしたまま長椅子に座る。

香蘭は驚きそれでも飲み物を溢さぬ様に、大事そうに両手で持ったまま瞬きを繰り返す。

よく見れば抱き抱えた香蘭は、胸元から膝上まで薄い沐浴着で覆われただけの姿で、晴明からの目線では胸の谷間が気になるくらいによく見えてしまう。

それには、少し晴明も咳払いして明後日の方向に目を逸らす。

「…美味しいです。」
香蘭はこの状態に戸惑いながらも飲み物をコクコクと飲み、パァッとその味に驚いたように目を輝かせる。

「それほど上手いか?今年は良い出来だと聞いていたが、これなら果実酒も貿易出来そうだな。」
晴明はそう言って香蘭の手ごと器を持ち、残っていたコリンのジュースをコクンと一口飲む。

それには、香蘭も目を丸めてびっくりしている。

目の前にいるこの人はこの国の皇帝であり、誰よりも偉い人なのだから、今置かれたこの状態…天罰がくだるのではないかと心が騒つく。

そんな香蘭の気持ちなど知ってか知らずか、晴明は終始嬉しそうに微笑みを浮かべ、その頬に口付けを落とす。

香蘭は驚きのままに固まって、晴明を仰ぎ見るばかりだから、ここぞとばかりに器を取り上げ、そのコリンの実のように赤い唇を啄むように口付けをする。

その途端、香蘭の心臓があらぬ速さで脈を打つ。

目をぎゅっと瞑りその口付けを受け入れる。
啄むような口付けから、深く強く貪るような口付けに変わりしばし翻弄される。

離れた頃には息が乱れた。

「…これは少し刺激が強いな。」
誰に言うでもなく晴明はそう呟いて、真っ赤に染まった香蘭の頬を撫でる。

「もう一杯飲むか?」
パッと香蘭が晴明の膝から飛び降りて、

「じ、自分で注ぎます。」
と、ソワソワパタパタと器に水を注ぐ。

そんな香蘭を後ろから抱き寄せ、足の間に座らせ囲ってしまう。
「急に離れるな…寂しいではないか。」
ぎゅっと背中から抱きしめられて、結局元いた腕の中。

「晴明様といると…心臓が幾つあっても持ちません…。」
香蘭は訴えるように晴明を見上げる。

「それは困ったな早く慣れて貰わねば。俺はいつでもこうしていたい。」

晴明はどこまでも優しく微笑みを浮かべていた。