どういう事…⁉︎
白くてヒラヒラした…まるで絹のような寝巻きを着せられていた。

「安心してください。着替えさせたのは私ですから。その寝衣は若様がお選びになりましたけど、とってもお似合いですよ。
着る物は既に若様がいろいろ揃えてるようなので、ご心配なさらず。
衣装は昨夜の火事で煤だらけでしたから、お身体も半分は私が拭かせて頂きましたから。」
ニコニコ顔で寧々ちゃんが言う。

「いろいろ…ありがとう…。えっ!!半分ってどういう事!?」

「まぁまぁ、深く考えなくても。
それよりもお腹空きましたよね?今ならまだ若様が食事されている時間ですので、急ぎましょう。」

さぁさぁと、寧々ちゃんに急かされて言われるがままに顔を洗い、真新しい着物に着替える。

衣装部屋には、沢山の衣装が整然と並べられていて、まるでお店のようだった。

「この着物は…?他にもどなたか住んでいらっしゃるの?」
私が驚いて寧々ちゃんに聞くと、

「ご心配には及びません。
この邸宅は若様だけの隠れ屋みたいな場所ですから。
この部屋にあるものは、全て若様が姐様にと用意された品々ですよ。

少し愛が重いかもしれませんが…
姐様をいつか迎え入れる為、この3年間どれほど頑張っていらしたか。とりあえず無碍にはしないで下さいね。」 

「わ、私を…!?」
若様が私なんかをなぜそれほどまでに?

呆然としている間に寧々ちゃんは、せっせと私に綺麗な着物を着せて、髪を梳かし整えてくれる。

その手際の良さに少し呆気に取られながら、自分が自分では無いような、ふわふわした感覚を感じていた。

ここの若様はどれほどお金持ちでいらっしゃるんだろう…全ての物が一等品で、触れるのも怖いくらいに煌びやかに輝いて見える。

あの方は…きっと、私自身を目の当たりにしてガッカリされているはずだわ…。

舞台から降りた私はただの見窄らしい孤児に過ぎない。身分違いもいいところ…不釣り合い過ぎて、側に寄るのも烏滸がましいわ。

初めて着たこの地域の伝統的な着物は、至る所に細かい金の刺繍が施され、生地もサラサラと触り心地が良い。若草色の豪華な打ち掛けを羽織れば、気持ちがぎゅっと引き締まった。

だけどふと近くにある鏡を覗けば、なんだか自分が場違いで、まるで仮装をしているように滑稽に見えてしまいため息が出る。

そんな私とは裏腹に、寧々ちゃんはとても嬉しそうに、
「すっごくお似合いです。きっと若様お喜びになりますよ。」
手を引かれ、あの方がいるであろう食堂へと足速に連れて行かれる。

部屋を出て渡り廊下を歩けば、外の空気がツンと刺さり冬の寒さが肌に染みる。

雪が積もって一夜にして白銀の世界に変わっていた。


「おはようございます。良く寝られましたか?」
食室と呼ばれる部屋の前廊下で、見覚えのある男性に声をかけられる。

昨夜は暗くてよく顔が分からなかったけど…この方もなかなかに顔の整った美男子だ。背も高く若様に負けず劣らずの容姿をされている。

少しの間、見入ってしまいバツが悪い。

「昨夜は…いろいろとご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。それなのに…こんなに良くして頂きありがとうございます。なんだか…申し訳ない気持ちで一杯です。」
深く頭を下げてお礼を言う。

「いえ、私どもは若の言い付けで動いているだけですから、礼など結構です。」
 
ツンとした態度で話されるから、心がぎゅっと締め付けられて、決して歓迎されている訳ではないんだと、気持ちがシュンと沈んでしまう。

「挨拶が遅くなりました。私、若のお目付け役をしております。孫 李生(そん りせい)と申します。お見知り置きを。」
スンとした冷たい態度はきっと、身分違いも甚だしいと思われているのだろう。そう思うと気分が落ちて、李生様と目を合わす事も出来なくなる。

「若が、先程からこちらで朝食を取られております。ご用意致しますのでご一緒にどうぞ。」

私なんかが一緒になんてとんでもないと、断りたいのに李生様は有無を言わさず、食室の扉を開け中に入るように促す。

晴明様に…若様にちゃんとお礼を伝えなければ、どんなにガッカリされようとも、もう既にどうする事も出来ないのだから…