「どうか、私を受け入れてはくれないだろうか。そなたの事を誰よりも愛している。」

雷に撃たれたかのような衝撃を受け、私は足の力が抜け、思わずその場に座り込みそうになる。

それを咄嗟に目の前の男が抱き止める。

突然の急接近で心臓が踊る。

「あ、あの…恐れ多い事を…大変申し訳ございません…」
もはや謝るしかない私は、必死にその逞しい腕から逃れようと試みる。

「…俺の事を肩書では無く、1人の男として見て欲しい。」
懇願にも似た目線を向けられ、どうしたらいいのか分からず戸惑うばかり…。

「鈴蘭殿…いや、香蘭、俺を見てくれ。
そして、そなたの本当の気持ちを聞かせて欲しい。
ここにはもう誰もいない。ありのままの君でいい。」

先程とは違う優しげな声に魅せられて、つい顔を上げてしまう。

だけどまた、その近さに戸惑い、忙しなく瞬きを繰り返す。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、陛下は軽々と私を抱き上げるから、突然の事に驚き思わず首元にしがみ付いてしまう。

「…殿下…申し訳、ございません!」
ハッとして離れようとするのに、どこまでも陛下は嬉しそうに微笑みを浮かべる。

それとは対照的に私の心臓は、痛いほどドキンドキンと脈打っている。

それなのに陛下は私を抱いたまま長椅子に座ってしまうから、私もそのまま彼の膝の上…

なんて恐れ多い事を…
既に頭の中は混乱していて、訳も分からず泣きたくなってしまう。

そんな私を宥めるように、陛下は優しく抱き寄せて、背中をヨシヨシと撫ぜる。

「悪いが、こう見えて浮かれているのだ。
恋焦がれたそなたが今、俺の手の中にいる。こんな夢のような幸福は今まで感じた事がない。」

「あの…陛下…恐れながら…」
私は勇気を振り絞りなんとか言葉を発するのに、不意に唇に人差し指を押し当てられて、話し出すのを止められる。

「鈴蘭、俺の名を忘れたのか?
晴明だ。そなたの前ではただの男、晴明だ。敬語も要らぬ。」

捕らえられた視線から反らせる事など出来る訳が無い。

これから私はどうなってしまうのだろう…

不安と緊張の渦の中…それでも触れた逞しい躯体に、少しばかり不思議な安らぎを感じてしまう。