せっせと床拭きをするわたしを避けながら、なにかを言っているコロコロ表情ばかりが変わる舎弟。
ちなみに身につけているチェック柄の三角巾とエプロンは矢野さんから渡されたものだ。
カシラがおまえに───と。
「……じ、ろ」
「ん…?おいっ、いまオレのことジローっつった!?なあ!言ったよな…!?」
あっている、らしい。
「じ」と「ろ」を、ちゃんと言えたみたい。
常にポケットに入れている手帳型の電子パッド。
【ゆーみはいつも、どこにいる?】
「…どこって……、んー…」
朝いなくて、夜も帰ってこない。
どこで彼はいつも寝ているんだろう。
ここはゆーみのお家だって、矢野さんも言っていたのに。
【上に立つ人間は仕事がいそがしい】
きっとこれ以上を聞いたとしても答えてくれない。
どこで怖い顔をされるかと、わたしはいつも怯えている。
たくさんの顔を持っている男たちが居る場所なのだ、ここは。



