単調に読み取れる言葉の奥に、気持ちを揺らがせてくるもうひとつの言葉が心に聞こえてきた。
「………、」
思い返せば、ここのお家での楽しい思い出はあっただろうか。
閉め切ったボロボロなカーテン、賞味期限の切れたお弁当にカビの生えたフルーツ、何日も洗っていない洗濯物。
隠されるように生きていた。
お父さんがいなくなって、逃げるようにこの団地にお母さんと来て。
別人のように変わっていく母親が居ただけで、ただそれだけだ。
「っ、…ぅぅ、ぁぁ……っ」
「…はいはい。腹減ったねえ」
そして担ぎ上げられる。
ここにいても食べ物がなくなって、いずれは生きていけなくなるだけ。
周りの住人にも避けられていたわたしたちは、周りの助けなど期待できるものじゃない。
わかっていたよ、そんなこと。
「ゆー、ぃ」
「んー」
「……ゆー、みっ」
「…ね、言えた。そうやってどんどん変わってくから。苦しいのは今だけだよ、……音都ちゃん」
わたしを産んだことをずっと後悔していた。
わたしを捨てて、彼女は自分の人生を楽しく歩いているのかな。
もしそうなら、そのほうが……いいね。
しがみつくように、ぎゅっと固く目をつむる。
さようなら────……お母さん。
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