「すぐ手が出るんだからほんと困るよ、あのハゲは」
「…あなたがそれを言いますか」
「俺は暴力じゃなくて武力だから」
そのなかでもどうしてか、彼の声だけは聞こえてくる。
まったく聞こえないのに聞こえてくる。
わたしは無意識にも近寄って、唇の端にできてしまったゆーみのアザに手を伸ばした。
「……ぃた、ぃ?」
「…なにそれ心配?俺が巷でなんて呼ばれてるか知ってる?戦闘狂だよ、せんとーきょー」
「ぁぉ、る…?」
「…治るよこんなの。3日で治る」
殴ることないのに…。
でもゆーみもお父さんでもあるおじさんに向かって“ハゲ”ってたくさん言っていたのは分かったから、怒られちゃうのも仕方ないような…。
「それにしてもカシラ…、本当に東條グループの女に手ぇ出したんスか…?」
「うん。それはほんと」
「さすがにヤバいっスよ…!!」
「知らなかったんだから仕方ないだろ。東條グループもあんな女を選ぶなんてだいぶ落ちぶれたもんだよ」
血が出てるのに笑ってる…。
血の匂いをさせておいて、いつも無傷なのがゆーみだった。



