どこか安心している矢野さん。
お高そうな花瓶だけはと守りに入っていた舎弟の名前は確か………ジロー。
吹き飛んだ襖を修理しながらも聞き耳を立てている、おじさんの付き人たち。
「んなら、責任持って可愛がってやれよ」
張り詰めていた空気が和らいだ。
おじさんは瞳をふわりと伸ばして、まるで眼差しだけでわたしの頭を撫でてから部屋を出ていく。
「た、た、助かった~~~!!てっきりオレたちにまで飛び火するかとヒヤヒヤしたっス!!」
「あそこまで禁句を連発できるのなんか息子であるカシラしかいねーよ…。冗談抜きで心臓止まるかと思ったぜ……」
「チャカが1回も出なかっただけマシだけどな…。つーかべっこう飴で組長を説得するって、ニコすげーぞ!!」
緊迫感がいっきにほどけて、男たちは脱力。
まるでこの世でいちばん恐れているのは先ほどの空気感とでも言うように、初めて目にしたわたしでさえ、喉に詰まっていた何かがストンと落ちたみたいだった。
スーーっと、ようやく肺に酸素が入ってくる。



