「やめときな。そいつにあげるとハゲるよ?」
「ハゲねェよ」
「ハゲにハゲないって言われて誰が信じられるんだよハゲ」
「……おいクソガキ、遺言はそれだけか?」
これ以上たくさん食べると糖尿病になるって、ゆーみには言われていたから。
思った以上にわたしがべっこう飴を気に入って、矢野さんも驚いていた。
だからこれは、おじさんにあげる。
「…おまえな、お嬢さんにべっこう飴って……。もっといいモンあげろや」
「あげようと思ったよパンケーキとか。んでも本人は幸せそうな顔してんだから…いいモンでしょ」
サングラスの先、ふっと崩された瞳孔が見えた。
砂糖と水だけで作れる不思議な飴を受け取って、おじさんは質感の厚そうなスーツの内ポケットにしまう。
背後にいるゆーみがどんな目で父親を見ているのか、わたしは知らない。
「俺はこいつをここで働かせて、母親の代わりに稼がせて……今まででいちばんヤクザっぽいことしようと思ったんだよ」
「……………」
「なあハゲ。もうあんたに覚悟のない甘ったれなんて言わせないくらいには」



