「去年の屋台での余りもんだよ。夏祭りって子供からすれば楽しい行事だろーけど、実際のとこ俺たちの金づるだからね」
ライターから直に付けられて、わたしは光に夢中になった。
ふわっと、小さな赤色が落ちては消える。
「これから冬になんのに花火って、俺たち頭おかしーや」
「………ふ」
「……いま笑った?」
なにしてるんだろう、わたし。
知らないお家で目覚めて、知らない人たちと飴を作って、知らない人の帰りをずっと待って。
知らないおうちで、こんな時間に線香花火。
《おまえは、ニコ。今日からニコっていう名前で生きるんだよ》
スマートフォンに打たれた文字。
それまでの名前を捨てて、わたしは今日からここで生きるんだって。
花火が思ったより楽しかったから。
わたしは納得してひとつ、うなずけた。
《俺は憂巳(ゆうみ)。羽倉 憂巳(はくら ゆうみ)って名前。ちなみに“かどっこまいにち”で好きなキャラはペットボトルのフタ》



