娘がまさか全聾(ぜんろう)だとは思っていなかった両親たちが愛情を込めて付けてくれ名前。
それがこんなにも自分たちを追い詰める名前になってしまうだなんて、本人たちがいちばん思ってもいなかっただろう。
『どうして普通で生きられないのよ……!!あたしは普通の母親にはなれないってわけ!?』
『……俺は1度、おまえに聞きたかったことがある』
『…なによ、』
『もし出生前診断で音都の障害が分かっていたら………どうしていた?』
お母さん、お父さん、ごめんね。
せめて言いたくて、リビングのドアをそっと開けた。
ふたりの顔がゆっくりとわたしを捉える。
小学3年生の夜だった。
明日からは学校のお友達とはもう会えないからね、と、言われた日。
『────産まなかったわ』
お母さんはわたしの目をしっかり見つめて、そう言ったんだ。



