【そろそろ寝る時間だ】
雨はどんな音をしているんだろう。
地面に打ち付けて、水滴を飛ばす音は。
いつからか降ってきて、もっと降れ降れと祈れば、雨は散々だと言いながら帰ってきてくれるような気がしたから。
すでに空はまっくら。
「矢野さん、カシラはこいつをどうする気なんスかね?」
「…さあな。明後日、組長に話すみたいだが」
「うげっ。また花瓶は割れるわ壁に穴空くわ、勘弁してくださいっスよお~……」
この部屋は好き。
ベッド脇のフロアライトひとつが温かくて、物はそこまでないけれど、なんだか落ち着く。
中庭の庭園にある盆栽、濡れた石、影を作る木。
ぜんぶがちがう世界に来たみたいに思わせてくる。
【このベッドは使っていい。眠たくなったら寝なさい】
この人は矢野さんというらしい。
トレードマークはノンフレームの眼鏡。
銀髪さんよりもずっとずっと大人のひと。
銀髪さんはきっと、きっと、帰ってきてくれる。



