「ニコちゃん今日のご飯は天ぷらね。あ、お願いだからセンブリ揚げるのだけはやめてくれよ」
「そんなの揚げないよ!あれは……初めてだったから…」
「うんうん。クソまずかったなあ、ほんと」
「もうっ!ひどいよ憂巳っ」
ごく普通の、どこにでもいるカップルだ。
普通の会話をして、普通のデートをして、普通の言い合いをして。
俺はふと空を見上げて、今日はこんなに天気が良かったんだと実感する。
「………あのー、落ちましたけど」
「……………」
そんなカップルとすれ違って、すぐ。
「ハンカチ、落ちましたよ」
「……ああ、悪いね」
落としてもいないし、差し出されたハンカチは30過ぎた男が持つにしてはかなり恥ずかしい色合いと模様だった。
ただ俺にとってそれは見覚えがあり、懐かしいと感じるもの。



