「わた…っ、わたしっ、…ニコっ……っ」
世界が色づいていく。
空はこんな音をしていたんだ、電柱もこんな音を出して、風の音だって。
すごいね、匂いにも音があるんだ。
そして私の声は、こんなへんな声。
「ゆーみ…っ、ゆうみっ、……憂巳っ」
「…うん。僕だよ」
苦しいほどの腕のなか。
こんなにも薄暗い路地裏に、まるで光が射し込んだみたい。
僕、だって。
似合わないようでとてもあなたらしいと、思った。
「ニコ」
やっぱりあなたはこんな素敵な声をしていたんだ。
そんなふうにいとおしく、やさしく、私の名前を呼んでくれていたんだ。
初めて聞こえた音で紡がれる言葉は、私に何をまず伝えてくるのだろう。
吐息を感じる。
これから音が出されるよっていう合図が、特殊な信号として伝わるようになった耳に、いちばん。
「────…あいしてるよ。……愛してる」
ひどいよって、たくさん責めるの。
どうして急にいなくなったのって、ずっとずっと待ってたんだよって。
いっぱい怒って、拗ねて、許さないってウソを言うの。
そのときあなたはどんな言い訳をするのかな。
どんな声で、どんな音で────。



