「すみません。ぶつかったのは俺です、ここは見逃してくれませんか」
「ちょっと海人くんっ!違うじゃん!」
「いや、俺です。金なら1万しかないんですけど…」
「ねえっ、そんなことしなくていいってば…!」
「いーから!!!」
「っ…、」
そう、これで去っていってくれるなら、それでいいの。
こういう人間たちには下手に関わっちゃダメだってこと、一花は知らないんだ。
目の前にいるのが2人だとしても、すぐに仲間を呼ばれて何倍の人数に増えてしまうことを。
────それが、この世界の掟。
「話がわかる男で助かるけどよ、兄ちゃん。ちょっとこの女ァ、生意気すぎたなァ?」
「……すみません。許してください」
「…お?こっちの大人しいほう、なかなか可愛い顔してんじゃねェか」
「っ!!そいつには触る───ガハッ…!!」
私に伸びようとした男の手は、海人のお腹に容赦なく食い込む。
胃液を地面に吐いてうずくまる海人の姿を目にして、一花はようやく恐怖を感じ始めた。



