「オレ昨日置いていかれてっ、走って帰ったんスよ!」
「え?昨日おまえも居たっけ」
「なっ、ひでえっス!!マジ寂しかったんスから…!!」
「俺はぜんぜん寂しくなかったよゴロー」
「ジローっス!!!」
甘いものを口にしたからからか、解放された縁側から射し込んでくる光がキラキラと輝いているからか。
座ったわたしを囲う声を、やさしいものに変換する。
「ふむふむ。バッサリいっちゃっていいんスね?じゃあ切りますよー…っと」
「可愛くしてやって」
「任せてくださいっス!!こいつけっこう輪郭整ってるんで、ショート似合うと思うっスよ!」
また違う部屋に移動して、伸ばしっぱだった髪は丁寧にカットされてゆく。
あまり美容院にも行きたくなかった。
だって、話せないから。
もちろん美容師さんたちは気をつかってくれるけれど、わたしはあの空気感が窮屈だったんだ。
としてもお父さんがいなくなってからは、美容院自体も行ってない。



