「なんで……、僕のためにそこまでしたの────…兄ちゃん」
この話が本当だとしたら、どうしてそこまでしてくれたんだ。
俺に恨まれてまで悪役を演じて、演じきって、親をも騙すことまで徹底させてきたんだよ。
「弟が転ばないようにしてやるのが……兄ちゃんの務めだからな」
どこも変わんないね。
兄弟ってそんなもんなんだなって、俺はいつかに見た幼い兄弟を思い出した。
あんたは俺にとって、おんぶをしてくれるようなような兄貴じゃなかった。
転んだら立ち止まって起き上がらせてくれるような兄貴でもなかった。
そんなわかりやすい優しさを向けてくれる兄貴でも、“普通の兄貴”でも、なかったけど。
「どんなに離れたって、2度と会えなくたって。キョーダイの絆ってのはそう簡単に切れるもんじゃないのよ。───…愛されてんねえ、憂巳」
俺たち兄弟の繋がりを最後まで切らせなかった天道 陽太の言葉に、ポロッと一筋、俺の頬を涙が伝う。
かっこいいね、兄ちゃん───、
とは素直に言えなかった俺に、あんたはそんな顔で笑う男だったんだと思わせる表情を一瞬だけ見せて、再び背中を向けていった兄。



