殴りかかろうとした俺を止めた、天道さん。
もし止められなかったとしたら、兄貴は俺のこぶしを受け入れていただろう。
「…兄貴ってのはさ、いつだって格好つけたい生き物なのよ」
この人の言葉は、いつだって心に刺さってくる。
「感情が抑えられないなら、まずは事実だけを見ればいい。現にいま憂巳は実家を出て、ある意味自由の身だ。
…憂巳が守りたかった存在も無事なんでしょ?ねえ、お兄ちゃん」
「……ああ」
「それで憂巳は雲雀会から破門にされて仲間たちからも裏切り者として見限られて、親からも見放された。
確かにそれくらいしないとこの世界から抜け出せないってのもまた、事実。…そこは俺もよーく知ってるよ」
事実だけを並べられた結果、ぐうの音も出なかった。
だって言われてみればその通りだったから。
俺の感情論を取り出したとき、逆に俺には「自由の身」という立場だけが確かに残っていた。
だとしてもそんな都合いい話なんかないのが俺たちの世界だろ。



